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[読者と記者の日曜便]マスターは「がんサバイバー」

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マスターは「がんサバイバー」

 先日、日曜便にこんなメールが届きました。

 〈肺がんで『5年後の生存率数%』という医師の宣告を蹴散らし、ご自身の通院していた病院前にブックカフェを開いた男性がいるんですよ〉

 がんを経験して生きる人を「がんサバイバー」と呼ぶことがあります。メールによると、男性は「ダンディーながんサバイバー」とのこと。早速、会ってきました。

 本の しおり と響きから名付けられた、そのブックカフェ「 栞日しおりび 」は岡山大学病院(岡山市北区)のそばにありました。

 店に入ると、あごひげが似合うマスターの田中勇さん(57)=写真=が「ようこそ」と笑顔で出迎えてくれました。紀行本や小説、がん関連のエッセーなどが並び、コーヒーの香りがふんわり。店は、昨年8月に開店しました。

 元々は、大手書店関連会社の社員で「1日30本のたばこ、常に終電帰り」という仕事一筋だった田中さん。8年前、「小細胞肺がんで、最も進行しているステージ4」と宣告され、休職し、岡山大学病院で、がん治療を始めます。

 病状は好転。でも闘病を励まし合った患者仲間たちは次々と他界。「次は俺か」と押し潰されそうになり、2012年夏、うつ病になりました。

 自分を見つめ直したい。そう考えて一人旅を始め、道中、立ち寄ったある寺で枯れ山水を眺めていた時のことです。

 「突然、『自分は生かされている』との思いが浮かび、気持ちが軽くなりました。それまで『生きよう、生きよう』ともがいていたのに。スピリチュアルみたいですが……」

 生死の深い問いを続けていると、そんな体験もあるのですね。いずれにしても、この体験が契機で、うつを乗り越え、復職を果たし、一昨年に退職をします。

 「今、僕にしかできないことをしなければ、という思いが強まったのです。会社は自分なしでも回る。治療中は生きる希望を感じたくて、がんサバイバーに会いたくて仕方なかった。ならば、いつでも僕に会え、がん患者が集える場を作ろうと思いました」

 こうして、本やコーヒー好きの一般客はもちろん、がん患者の人たちの絶えない栞日が誕生しました。

 治療の進歩でがんを克服する人は増える一方、不安や孤立感に苦しむ人は少なくありません。栞日(日祝休み、電話086・235・2015)のような存在は貴重です。

 田中さんは、自身が発足させた岡山の肺がん患者会の交流会も栞日で開いています。患者会の名は「ライオンハート岡山」。闘う力が強い心の意を持つ名前通りの活動が続いています。(斎藤七月)

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