いつか赤ちゃんに会いたいあなたへ
妊娠・育児・性の悩み
不妊は「隠すべき」「劣っている」こと? 自分を追い詰めないで
繰り返す治療で「感情にふた」 自分を守る防衛本能
以前Fineがイベントを行ったとき、一人の女性が私に話しかけてきてくれました。
「あの……私は治療を2年してるんですが、一回も泣いたことがなかったんです。あんまり、なんていうか、悲しいって思わなくて……。私、そんなことも感じない、感じることもできない、私なにか鈍いのかなって…」
そこまで話すと、彼女の目から涙がぽろぽろあふれてきました。
「……でも、ここにきて、最初話を聴いて、そうしたら、なんだかわからないけど、涙がどんどん出て止まらなくて……。今まで一回も泣いたことなかったのに、どうしてだろうって。泣いたことなかったのに……」
そして最後に「私、今日ここに来てほんとによかったです。本当にありがとうございました! また参加します!」と、泣き笑いの笑顔で帰っていかれました。
こうした経験を、私は数えきれないほどしています。当事者はどうしてここまで自分を追い詰めてしまうのだろうと、この現状にたまらない気持ちになります。
高度な不妊治療である体外受精ですら、1回の治療につき出産率は12%程度にとどまります。念願の妊娠・出産がかなわない時、それに費やした時間やお金を考えると当事者は気が遠くなるほどのショックを受けます。しかし、やはり子どもには代えがたいので、赤ちゃんに会えるまで頑張ろうと、自分を奮い立たせて治療を繰り返します。
そうしているうちに「感情にふたをする」当事者も増えてきます。治療のたびに期待をすると、それがかなわなかったときにつらいので、もともとあまり期待していない「ふり」を自分自身にもするのです。そうして、自分の心を守ろうとする。これは防衛本能のようなものではないかと思います。
おそらく、この女性もそうやって、知らず知らずに自分の感情を封印し、悲しさを感じないようにしていたのでしょう。しかし、それは不自然なことなので、あとで大きなしわ寄せが来ないために、どこかで感情を出してあげる必要が本当はあるのです。
当事者の孤立化を防ごう
「話さない」「知らない」「話せない」…当事者の孤立化の負のスパイラル。これを断ち切るために、ささやかながら経験からの助言を。
〇不妊当事者ではない方へ
「不妊の人に対してどう対応すればいいですか?」という質問をよくいただきます。例えば職場、友人、家族や親族の方々からです。私は「自然に対応してください」と言います。当事者としては「特別視」をされるのがつらい、つまり不妊だからと気を使われるのが一番つらいのです。もしも周囲の人から不妊を打ち明けられたら、「私実はいびきがものすごく大きくて悩んでいるの」と言われたぐらいの感じで聞いていただけるといいと思います。たとえは極端ですが、ふざけているわけではなく、要はそれぐらい構えずにいてほしいということです。そこで「悩みを解決するために何かしなくては」とか「慰めになるようなことを言わなくては」と気負う必要はありません。ただ黙って聞いてもらえるだけで十分なのです。そして、もしよかったら「何か自分にできるサポートはある?」もしくは「応援してるね」などの言葉をかけていただければ、心強いと思います。
〇不妊当事者の方へ
どなたか相談できる方はいますか? もし、ひとりで悩みを抱えているとしたら、きっと重たいと思います。ぜひ、勇気を出して誰か一人でもいいので話せる相手を見つけてみてください。「話す」は「放す=その思いを手放す」、「離す=その課題を自分自身から切り離して客観的に扱える」につながります。話せば、わかってくれたり味方になってくれる人は必ずいます。不妊は、恥ずかしいことでも悪いことでも人より劣っていることでもありません。ただ、現在子どもができていない状況だ、というだけです。そんなに自分を責めなくてもいいんです。どうしても勇気がないという場合は、当事者のコミュニティーに参加することもおすすめです。
たとえばNPO法人Fineが主催する、年に1回の当事者イベント「Fine祭り2018」( http://j-fine.jp/matsuri/2018/matsuri.html )もあります。今年は11月25日(日)東京です。もし「どうしても周囲に話す人を見つけられない」という場合は、勇気を出して参加してみませんか。Fineのメンバーは全員不妊当事者です。ひとりでも安心して参加いただけますよ。一人で抱え込む前に、ぜひ。(松本亜樹子 特定非営利活動法人Fine=ファイン=理事長)
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