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コラム

不妊は「隠すべき」「劣っている」こと? 自分を追い詰めないで

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イラスト:西島秀慎

イラスト:西島秀慎

 先日、社会人1年生のMさんに「実は、初めて松本さんにお会いした時、自分の不妊体験をあんなに堂々と人前で話してすごいなとびっくりしたんです」と言われました。彼女はこの春まで、私が月に1度生放送のナビゲーターをしている「渋谷のラジオ」のディレクターさんでした。

「なんか恥ずかしいっていうか、人に言っちゃいけないっていうか……」

 確かに番組は、朝っぱらから「不妊」はもちろん、精子、卵子、射精、受精、×××……など、学生さんは日ごろ耳にしない刺激の強い内容だらけだったかもしれません。しかし、彼女は1年間担当して、良くも悪くもすっかり不妊事情に詳しい女性になったのでした。しかし、その彼女をして、この言葉。私は「へぇー、そうだったんだ。びっくりしたって、どうして?」と尋ねると、「えっ、うーん、だって……なんていうか、もし自分だったら、とても話せないなって。なんか不妊って恥ずかしいっていうか、そもそも、そんなの人に言っちゃいけないっていうか……不妊ってそういうことじゃないですか」という答えが返ってきました。

 ああ、なるほど。この年代でもやはり「不妊」はタブー視されているのだなと思いました。一体、いつからその意識が植え付けられるのでしょう。高校? 中学? もっと前? そしていつも思う素朴な疑問。「不妊はそんなに隠す“べき”ことなのか」

 皆さんは、どう思われるでしょう。イエス、あるいはノー? 

隠すことの悪循環 正しい理解広がらず、さらに話しにくく

 確かに、不妊は話しづらいことかもしれません。不妊であることや不妊治療を受けることに劣等感や罪悪感を持つ人も多くいます。結婚したら子どもができて当然と思って育ってきているので、いざできないとなると「普通のことができない自分」を突き付けられ、自己肯定感が持てなくなるのです。また、不妊(治療)はその内容を正しく知られていないがゆえに、特別視されることが多く、理解者が少ないということも当事者が隠したがる要因の一つといえるでしょう。

 しかし、これは明らかに悪循環です。当事者が話さない ⇒ 周囲は知らない・わからない・正しい理解が広がらない ⇒ 周囲から誤解・曲解される ⇒ 当事者は心ない言動に傷つく ⇒ 当事者はますます話したくなくなる・隠す ⇒ 周囲はますます知らない・わからない……。こうしたスパイラルがあるわけです。

 では、これが日常生活でどのような支障をきたすのでしょう。

職場で不妊治療のことを言えず、退職した管理職の女性も

 Nさん(41歳)はメーカーの管理職でした。部下の手前もあり、「自分の年齢で不妊治療をしていることは言いたくなかったし、言えなかった」とのこと。幸いフレックスが利用できたため、周囲に隠して通院していたのですが、治療が長引くにつれ、出張を断ったり、会議に遅れてしまったりで上司からたびたび注意され「部下に示しがつかない」状況になってきてしまいました。結局、Nさんは退職したのですが、「治療のことを話して周囲に協力してもらえれば、辞めなくてすんだのかも」と後悔しているそうです。

 他にも、家族に話していないために、帰省のたびに子どものことであれこれ言われるのがつらく、義実家や実家に帰るのがおっくうになって帰らなくなってしまったというケースや、子どものいる友人たちと疎遠になるなど、当事者が孤立してしまうケースは枚挙にいとまがありません。不妊に限らず、マイノリティーの課題にはこうした「話さない」「知らない」の悪循環を繰り返す、鶏と卵のような関係があるように思います。このスパイラルを何とかして断ち切れないものかと常日頃から思います。

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松本亜樹子(まつもと あきこ)

NPO法人Fine理事長/国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

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