医療部発
医療・健康・介護のコラム
連載「いのちの値段」と高梨記者の書籍「大学病院の奈落」に医学ジャーナリスト協会賞
質の高い医学・医療報道に贈られる「第7回日本医学ジャーナリスト協会賞」の授賞式とシンポジウムが11月上旬、東京都内で開かれた。
新聞・雑誌部門の優秀賞に読売新聞東京本社医療部取材班の連載「医療ルネサンス『いのちの値段』」、書籍部門の特別賞に医療部次長・高梨ゆき子記者の「大学病院の奈落」(講談社)が選ばれ、同協会の水巻中正会長から賞状とトロフィーが授与された。
医療費を巡り患者に次世代を思う気持ち
いのちの値段は2017年1月~18年7月、11部にわたり、医療と患者の暮らしを「値段」という切り口で多角的に描いた。取材班をまとめた鈴木敦秋記者は、シンポジウムで「病むからこそ、死があるからこそ、分かること、人と分かちあうことがある」と語った。
連載には、肺がんを患い高額ながん治療薬を使った、幼稚園教諭で3人の子を持つ母親が登場し、子供たちと一日でも長く生きたいと望む。しかし、かかる医療費は月に200万円超。自ら支払う4万円を除いた差額の負担の一部は、子供たちの世代に回されていく、というジレンマを母親は抱えていた。
「このジレンマをどう考えればよいかという母親の問いかけから、シリーズは始まった。連載に登場するほかの人たちにも次世代を思う利他的な気持ちがあり、多くを学んだ」と鈴木記者は述べた。
「いのちの値段」連載は、大幅加筆され12月4日に講談社から出版される予定だ。
患者と医療者がともに闘う意識が必要
「大学病院の奈落」は、読売新聞で特報した群馬大学病院の手術死続発を題材に、医療機関の閉鎖性や医療界の倫理意識などの問題に迫った。シンポジウムで高梨記者は、保険適用外の高難度の手術を、多くの病院が倫理審査を受けずに行っていたという調査結果を紹介。「群馬大学病院で起きたことは、どこで起きてもおかしくない問題」と指摘した。
医師が「手術はうまくいきました」と強調して都合の良くない情報を患者の家族に十分に伝えない結果、術後の容体悪化を間近で見た家族がかえって不信感を募らせたと、問題が起きた当時の状況を高梨記者は説明。患者と医療者がともに病気と闘う意識が必要と訴えた。
こうした事態を教訓に、群大病院が19年から、入院患者が自分の電子カルテを自由に閲覧できるシステムを運用する話題に触れ、高梨記者は「重大な事故を起こした病院が改善に取り組むことで、日本の医療が良い方向に向かうのでは」と期待した。
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