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医療部発

コラム

麻酔リスク軽視に警鐘 2歳児死亡事故で原告勝訴

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調査形骸化 教訓生かされず繰り返された悲劇

 この裁判で東京地裁は、原告側の勝訴的内容で和解を勧告していたが、男児の両親は判決を望んだ。「公の場で判断を仰げば事故が広く知ってもらえる。再発防止のために注意喚起したい」との思いからという。

 榊原記念病院では、男の子の事故より4か月前の2006年5月、心臓病の女の子が同じ医師によるカテーテル検査の時の麻酔事故で寝たきりになっている(07年死亡)。病院は06年6月に女の子の事故の調査委員会を開き、報告書には改善すべき課題が示されたが、実行されずに男の子の事故が起きた。

 調査に外部委員として加わり、問題を指摘した聖路加国際病院の片山正夫・元麻酔科部長は「教訓が生かされず事故の繰り返しにつながった悲しい典型例」と調査や再発防止策の形骸化を嘆き、「自分を含め医療に携わる全ての者が他山の石とすべきです」と語る。

 だからこそ、両親は、男の子が亡くなった直後から、事故を公表して社会に警鐘を鳴らすよう病院側に繰り返し求めてきた。だが、病院はこれに応じることなく、やむにやまれず提訴に至ったという。事故の発生から8年後のことである。

事故公表 再発防止に寄与

 医療事故が明るみに出ることが、その病院だけでなく、他の病院や社会に対する注意喚起になることは、過去の例も示している。

 最近では18年6月、千葉大、横浜市大などの各病院が、画像診断報告書の確認不足によるがん見落としを次々に発表した例がある。このことは広く報道され、一気に社会全体に問題が周知された。以後、学会による再発防止策の提言など、改善に向けた動きにつながった。

 昨年、続々と発覚した無痛分娩を巡る事故も、報道が続いて問題が知られるようになり、対策が検討され始めた。それまで実施数さえ明確でなかったが、日本産婦人科医会が実態調査をし、厚生労働省が安全策を検討するための研究班を新たに設置した。

 16年と17年に画像診断の見落としを公表した名古屋大学病院医療の質・安全管理部長の長尾能雅・副院長は、公表の意義について、「重大な事故は公表するという前提があれば、病院は自らの役割や被害者の痛みについて問い直し、医療の公益性を自覚するようになります。その結果、安全に対する職員の考え方や行動も是正されると考えています」と話している。

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高梨 ゆき子(たかなし・ゆきこ)
社会部で遊軍・調査報道班などを経て厚生労働省キャップを務めた後、医療部に移り、医療政策や医療安全、医薬品、がん治療、臓器移植、周産期医療などの取材に携わる。群馬大学病院の腹腔鏡手術をめぐる一連のスクープにより2015年度新聞協会賞。 「大学病院の奈落」(講談社) で18年度医学ジャーナリスト協会賞特別賞。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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麻酔事故について知れてよかった

スタディ

この事故についてのご家族の行動は素晴らしいと思いました。 いろいろな思いがあったと思いますが、おかげで知ることができました。 該当の病院に少し前...

この事故についてのご家族の行動は素晴らしいと思いました。
いろいろな思いがあったと思いますが、おかげで知ることができました。
該当の病院に少し前、家族が入院しました。
ナースがあたたかい対応で、ドクターも患者のことを考えた対応をしていただき、とてもよい病院でした。患者を大切にしている様子が伝わる病院でした。
この事故については残念です。
当時、ネットでいろいろ調べましたが、この事故のことは出てきませんでした。
どうしたらこういう情報にたどり着けるのでしょうか?
うわさレベルでなく、情報共有できる仕組みがあれば良かったのにと思います。
今回、この記事にしていただいてありがとうございます。

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