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がんを語る

医療・健康・介護のコラム

大腸がん(下) 外出時に気になる「トイレの場所」 再発や悪化の不安抱えつつも前向きに

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ストーマでの生活 平気な人もいるが、長時間の外出には不安も

――ストーマ(人工肛門)での生活はどんな感じでしょうか。

清水 大変です。お若い方でも結構ストーマの方、いらっしゃるじゃないですか。でも、平気で会社や学校へ行ったりしているので、えっと驚かされます。私も外出ができなくはないんですけれども、気持ちがついていけない。ストーマ専用のトイレがなかったらどうしようとか、途中で失敗したらどうしようとか。実際に失敗したことはないんですけれども、装具は人が作ったものですから、100%安全ということは絶対ないわけです。やっぱりその不安を抱えて外に長時間行くというのは大変です。

 でも、日本オストミー協会の人は、「外国だって行っているし、ゴルフもやっているし、平気だよ」とか、「失敗しても平気よ。そこで下着を買ってくればいいんだから」って、すごく明るいんです。私はそこまでついていけない。やっぱり勇気がないですよね。

 でも、一歩うちから出ちゃえば平気。車だったらどこへ行くのも平気なんです。高速道路は、設備がかなり整っているんですね。だから、安心して走れるし、格好がどうなっていようが、ちょっと変な状態になっていても車だから見えない。だから車さまさま、乗れなくなったらどうしようかと思っているんです。

手術後はおなかが緩く、3~4か月はトイレの前で寝起き

――荒居さんは温存できたということですが、不具合はありますか。

荒居(写真右) 自分の思ったとおりにはなったんですけれども、一時的に作ったストーマを戻す手術をして、その日からですかね。体のシステムが変わったことを、まだ脳が理解していないのか、便が固まらないうちに出てしまう。回数が多いので、トイレの前で寝起きです。変な話、ご飯もトイレの前で食べるみたいな。

 それを3~4か月やっていて、本当に職場復帰できるのかなという不安はありましたね。

清水 大腸が働いていないということですか。水分を吸い取らない?

荒居 手術をして、結腸の終わりがいきなり肛門につながっていますので、基本的にためるところがない。あと肛門周辺の筋肉もほぼ切っちゃっているので、いきんでも出ないんです。筋肉がないので力が伝わらないですね。気持ちが全然伝わらないというか。

通勤経路の駅のトイレ調べ、ラッシュ前に出社

荒居 ストーマを閉じた当初ですが、多いときは1日に85回トイレに行ったことがあります。電車に乗るのも大丈夫かなというのがあったので、途中でおなかの調子が悪くなれば、駅のどのトイレが一番近いのかを通勤経路の中で調べておいて、「では、きょうから会社に復職します」という感じでした。

山田 トイレチェックね。私は車通勤なんですけれども、尿とかトイレが近いんですよ。やっぱりトイレの場所はチェックしておきます。携帯用のトイレも積んでおいて、万一に備えて、でかいビニールとかも積んで通勤していました。

――都心ならトイレはどこにでもありそうですが。

荒居 そうなんですが、朝の通勤ラッシュ時はトイレもラッシュなんですね。一般の人みたいにのんびり待てないです。ということは必然的にラッシュの前か後に出勤するしかないので、そうなると前を選ぶ。早起きして混む前に電車に乗って、7時半には会社に着く。それをもう5年ぐらいずっとやっています。

山田 催す感覚はありますか。

荒居 直腸があったころみたいに、トイレに行きたいなというのとはちょっと違うんです。おなかを壊すときの直前みたいな感じです。

――我慢できないのは困りますね。

荒居 もう5年ぐらいたったので、普段はゆるゆるなわけではなく、ちゃんと普通の便にはなるんです。この仕事が終わってからトイレへ行こうか、ということも一応はできるようには少しずつなっているのですけれども、いったん緩くなるともう手に負えないですね。

――今は頻繁にトイレに行かなくなりましたか?

荒居 頻繁にはないですね。行かない日もあるし、おなかを壊しても1日2~3回で済むときもあるし。でも、こればかりは気合と根性で何とかなるものじゃないので。

――だんだん機能も回復してきたんですね。

荒居 直腸がないから、残った腸が「俺たちが頑張らなきゃ」と思っているのでしょうか。それなりに頑張ってくれています。

清水 結果的に温存でよかったですか。

荒居 退院したてはちょっと微妙なときもありましたね。こんなにトイレばかりで、お尻も痛いし、つらい思いをするぐらいだったらストーマでもよかったのかなと。トイレの心配ばかりして生活するぐらいだったら。子供と公園も行けないわけですよね。ただ、せっかく先生と相談しながらここまで来たので。

 通勤は今でもやっぱり怖いですね。きょうこそ途中でめちゃくちゃ痛くなるんじゃないかとか。本を読んだり音楽を聞いたりして、おなかのことは考えないようにしています。

山田 対処法をだんだん覚えてくる。

荒居 そうですね。健康な人でもすごく不安になったりすると腸がゆるくなったりする人がいるので、余計なことは考えない。きょう帰ったら何しようかなとか、ある意味、健康な人よりは前向きだと思います。常に楽しいことを、前向きなことを考えるような癖が、この病気はつきますね。

清水 温存も大変ですね。私は全然ハッピーなのかと思っていたのですけれども。

荒居 気分転換できなくて、へこんだときもあります。散歩の途中で痛くなると、道端にトイレなんてないですから。車も乗りたいと思いますけれども、やっぱり途中で渋滞になったらとか思うと……。

山田 常にトイレのことを頭に入れておかないと、外に出たときは大変だよね。

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男性の3人に2人、女性の2人に1人が、がんになる時代です。このコーナーでは、がん種別に患者や経験者を招き、病との向き合い方を話し合います。
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2件 のコメント

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トイレを企業や政治家に利益と思わせる為に

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

書きっぱなしも何ですから少し考えていました。 トイレの問題は健常者も深刻です。 理由は一部の都市における人口密度と観光客が大幅に増加しているから...

書きっぱなしも何ですから少し考えていました。
トイレの問題は健常者も深刻です。
理由は一部の都市における人口密度と観光客が大幅に増加しているからです。

関西圏で列車にトイレがあるのはJRと新幹線だけです。
腹痛での下車やトイレの混雑を考えれば、本文のようにラッシュを避けるか住居と職場を近づけて出張の少ない職場にするしかありません。
また、もはや半分インフラと化したコンビニや24時間スーパーなどの役割も大きくなってくるでしょう。
労働者の制約条件に対するインフラの有無は、仕事の量も含めて都心部への人口集中をますます加速させるでしょう。

逆に言えば患者サイドなりマスコミからすればこういう悩みを悩みとして露出するだけでなく改善案として経団連や政治団体に提出することによって、地方の企業や政治家を味方につけることも可能になってきます。
建前として「患者さんのために」「お客様のために」を口にする方は大勢おられますが実利がなくてはなかなか動かないのが社会です。
しかし、一定数の悩みを持った人間の悩みと解決策としての具体案を提示されれば手を挙げる企業や団体も増えるのではないでしょうか。
大企業ばかり儲けているという民衆の批判は、大企業がその利益を社会インフラなどに還元してくれればある程度おさまりますし、一定のマーケットが見込める状態であれば様々な経費や広告的な意味合いを持ってくるからです。

僕自身も膝を怪我してから和式トイレを避けるようになりました。
また、多機能トイレの広い空間は普通のトイレより落ち着くと分かりました。
ストーマや車いすの方からすれば欠くべからざる作業空間なのでしょうが人によって立場によって見え方や感じ方は変わります。
都心の人混みや企業のハードワークの中で、トイレはまた人目を避けて休憩できる場所でもあります。
またコンビニはトイレを集客ツールにしてますね。

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ベターな医療の普及政策と白い巨塔との共闘

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

医師の使命として、臨床、研究、教育の3本柱を挙げる人は多いですが、それが現実の普及政策として不十分であることが、対談から分かります。 昨今の検査...

医師の使命として、臨床、研究、教育の3本柱を挙げる人は多いですが、それが現実の普及政策として不十分であることが、対談から分かります。
昨今の検査や治療の進歩は著しいですが、それでもわからないものは分からないし、治せないものは治せません。
しかし、心身のキュアとケアの軸に多様性を持たせれば介入できないものはかなり減っていると思います。
けれども、一般医師やコメディカルがどのようにユーザーである一般患者に診断治療のオプションや社会保障も含めてベターな医療を伝えるかの視点はまだまだ不十分です。

白い巨塔という有名な作品がありますが、閉鎖的な病院や大学という組織と市民を適切につなぐ仕組みや組織が不十分なせいもあるでしょう。
その事に対して、市民やマスコミ側からも動きがないと、いつまでたってもお互いが無駄な不利益を受けるのではないかと思います。

僕は健康診断や一般内科にしか従事しておりませんが、今でも放射線科や循環器その他の内科外科の学会で最先端の画像診断や血管内治療を学んでいますので、そのへんのギャップや人間的問題はよくわかります。
多くの現場の医師もよくて自分の科の最先端の技術しか知らない縦割り行政の中で過重労働していますので、他のオプションを提示するのが難しい。

結局、最終的に利益を得る、患者の互助組合や企業がタッグを組んで、それを臨床や研究に値する仕事と医師に認知させるのがいいと思います。

単なる癌のストーマ患者ではなく、急性腹症の一つの癌手術後のストーマや軟便・下痢というくくりで見れば、過敏性腸症候群や急性膵炎の患者さんと悩みや医療にインフラを共有できると思います。
患者同士や医師患者関係を対立項として捉える人もおり、それは事実の一部でもありますが、仮想敵や戦場を変えてやれば味方にもなります。
いままだ大きな病気を持たない人にも訴えかけられる言葉もあればと思います。

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