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「アラ古希」企業の戦力に…70歳前後 人手不足解消、経験生かす

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 団塊の世代を中心とする70歳前後の人材を「アラウンド古希(アラ古希)」と呼んで、活用する動きが企業に広がっている。人手不足を背景に、この世代が持つ豊富な経験や専門性を生かし、長く活躍してもらおうという狙いがあるようだ。(大郷秀爾)

「アラ古希」企業の戦力に…70歳前後 人手不足解消、経験生かす

笑顔で接客にあたる小川さん。リピーターとなる同世代の客も多いという(岡山県津山市で)

 「こちらの品はいかがでしょう」。岡山県津山市の紳士服店「はるやま津山インター店」で、販売スタッフの小川秋雄さん(71)がきびきびした動きで接客にあたっていた。

 衣料品メーカーや洋品店経営などを経て、2002年に嘱託社員として中途入社。今も週4~5日出勤し、1日7時間店頭に立つ。「最近はさすがに足腰が痛む」と苦笑しつつ、「コーディネートしたお客さんからの『周りに褒められたよ』という言葉を聞きたくて、仕事を続けています」と話す。

 「はるやま」を全国展開するはるやま商事(岡山市)によると、小川さんのように70歳前後で働く従業員は各地におり、最高齢は79歳だという。

 65歳以上を戦力とする企業は数多い。

 損害保険ジャパン日本興亜(東京)は18年4月に人事制度を改定し、60歳定年後の再雇用で、上限の65歳を超えても一定の評価基準を満たせば、70歳まで働き続けられるようにした。

事故現場に赴き、メジャーなどを使って調査にあたる石黒さん(東京都内で)

 交通事故の原因調査を長年担当してきた石黒淳人さん(65)は、この制度により現在も週5日働く。職場では最年長だが、事故現場の調査や当事者からの聞き取りなど精力的に動き、調査件数は月平均30件近くに上る。若手の調査に同行して助言するなど後進の指導にも力を注ぐ。「定年後こそ、よりシビアに結果を求められる。それが働く意欲につながっている」と話す。

 大和証券グループ本社(東京)は17年6月、傘下の大和証券の営業員について、従来70歳だった再雇用後の上限年齢を廃止した。この世代の営業員が相続などの提案を担当することで、高齢化が進む個人投資家の取り込みを図る。

 豊富な経験を他の企業で生かす取り組みも広がる。パソナ(東京)が展開する「パソナ顧問ネットワーク」は、登録された人材を企業に顧問として紹介するサービスで、登録者は65~74歳が4割を占め、企業の役員経験者も多い。実務経験や豊富な人脈を求める企業のニーズに合うという。

 実際、アラ古希世代が働く場は増えている。厚生労働省が18年5月に発表した労働市場分析レポートによると、希望者全員が66歳以上も働ける企業(従業員31人以上)の割合は17年度に9・7%、70歳以上も働ける企業(同)は8・7%。13年度の7・5%、7・2%からいずれも上昇した。総務省の労働力調査では、17年の65歳以上の労働力人口は822万人と、07年(549万人)の1・5倍になった。

 背景には、様々な業界で進む人手不足がある。高齢者の雇用に詳しい東京学芸大学教授の内田賢さん(人的資源管理論)は、「70歳前後の活用は人材確保に悩む中小企業が先行してきたが、近年は大手にも人手不足が広がり、シニアを生かす取り組みを進めている」と指摘する。

 アラ古希はまだまだ現役だ。「70歳でも健康な人は多く、働き続ける、趣味に打ち込むなど多様な生き方の選択肢がある。彼らに職場で活躍し続けてもらうためには、その働きぶりを評価し、意欲的に仕事に取り組める環境を整える工夫が企業や国も必要だ」と内田さんは話している。

衰えぬ消費意欲にも期待

 アラ古希への注目は人材活用の観点からだけではない。衰えない消費意欲に期待する企業の視線も熱い。

衰えぬ消費意欲にも期待

クラブツーリズムはシニアに配慮したツアーを展開する(同社提供)

 この世代が最も関心の高いレジャーと言えば旅行だ。各社は70歳前後でも楽しめるよう、工夫を凝らす。

 クラブツーリズム(東京)は、70歳以上向けのツアー「ゆったり旅70」を展開する。メインで訪れる観光地を1日1~2か所に絞り、滞在時間を長く確保するなど、スケジュールに余裕を持たせているのが特徴だ。他にも、バスが近くまで寄せられる観光地を選んだり、歩く場合は階段の少ないルートにしたりと、参加者の負担に最大限配慮する。

 同社の担当者は「同世代の参加者が多いので、『歩くペースなどで他の参加者に気兼ねしなくていい』と好評です」と話す。

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ゆったりした座席配置の「ロイヤルロード・プレミアム」の車内(JTB提供)

 JTBの店舗「ロイヤルロード銀座」(東京都中央区)が企画するバス旅行は、豪華さでアピールする。2017年4月に運行を始めた「ロイヤルロード・プレミアム」は、通常は45~55人乗りの大型バスの新車を、特注で10席に改装した。1席あたりの空間がゆったりした配置で、70代を中心に盛況という。

 この世代の健康意識の高さを当て込んで、シニア向けプログラムを導入するスポーツジムも多い。コナミスポーツクラブ(東京)が展開する「OyZ(オイズ)運動スクール」では、足腰を強化するコースに加えて、脳トレを採り入れたコースも用意する。

 70代前後の消費行動に詳しい、電通シニアプロジェクト代表の斉藤徹さんは「サプリメントなどの健康食品や、健康寿命を延ばすのに役立つ商品やサービスも、引き続き人気を集めそうだ」と話す。

働いて健康維持

 ◎取材を終えて 記者は現在、40歳。同世代の知人と、ふと定年後の話になり、知人は「自分が70歳まで働くなんて想像できない」と語った。確かに一昔前ならリタイアしている年齢だ。ただ、取材した現代のアラ古希の人たちは、年齢を感じさせないバイタリティーにあふれていた。働き続けることと健康を保つことは表裏一体に思えた。30年後は知人と、「70歳でリタイアなんて早すぎる」と話し合っているのかも。

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