文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

痛みや光過敏……感覚異常の無理解は社会の損失助長

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
痛みや光過敏……感覚異常の無理解は社会の損失助長

 痛みや光過敏などのような、他人には察知できない感覚異常は、それがどんなにひどくても、日本の法律では障害者と認定されません。それどころか、行政の窓口に相談に行くと、「大げさではないか」「とてもそうは見えない」といった疑いの目を向けられて、二度と行きたくないという感想を漏らす方もよく見かけます。

他人には経験できない症状 文章で表現

 前回取り上げた、視力は正常なのに「ものを見ていると頭がムニョムニョして」見ていられないという女性は、元国語教師でした。「他人には経験できないその症状を、何とか文章で表現できないですか」とお話ししたところ、音声読み上げソフトを用いながら何日もかけて、「眼との闘い」と題する400字詰め19枚の原稿を書いてくれました。

 私も小説を2冊出版し、表現者の端くれと勝手に自認していますが、この原稿は短編作品となるくらいの文章力です。本コラムで少しだけ紹介させていただく許可を得ました。彼女(Kさんとします)が「目が悪い」ことを断った上で入会した、月2回の話し方教室のくだりからはじまります。

眼球を動かすと吐き気 文字の読み書きがつらい

 ……「Kさん、どのくらいの大きさの文字なら大丈夫かしら」

 今、講師が新聞記事の切り抜きのコピーを配っている。他の人たちには記事をそのままコピーした原寸大のものが渡されるが、講師は私のぶんだけわざわざ拡大コピーしたものを作ってきてくれている。(中略)

 「目が悪い」といえば当然、「視力はどのくらい」という質問を受けるので、その時には「視力は1.2あります。ただ眼球を動かすと吐き気がするので、文字を読んだり書いたりして眼を動かすことが (つら) いのです」と説明する。

 しかし、この説明を聞いて私の眼の状態を理解する人はおそらく皆無であろう。

 そのあと、拡大コピーについての記述も出てきます。

 ……たしかにこれは 有難(ありがた) かった。4mm四方の大きさの文字が8mm四方に拡大される。(中略)小さな文字を追うのに比べて大きな文字は私にとってある種「ひとつの静止画」を見るかのように感じる。眼球を動かすつらさが多少はやわらぐような気がするのだ。例えば、「今朝目覚める」という一節がある時、「今朝」という画像と、「目覚める」という画像として捉えるのである。このとき私の頭の中には「ケサ」「メザメル」という音はない。そのかわりに「今朝」というイメージと「目覚める」という動作の画像を私の中でぼんやり浮かべることで、文を読む、字を見るという作業を倹約している感じ、眼で追った文字を頭の中で言葉に変換する作業を放棄した状態。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

心療眼科医・若倉雅登のひとりごとの一覧を見る

最新記事