心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
目に見えず、測定できない感覚異常 医療現場で軽んじられがち
視力は正常なのに「ものを見ていると頭がムニョムニョ」 疾患名つけられず
ここで、感覚異常は測れないし、他人にはなかなか想像ができないということの一つの例として、視力や視野がよくても、「見ることがつらい」という方の例を挙げたいと思います。
その方は50歳代の女性で、現在は私どものNPO法人「目と心の健康相談室」でボランティアをしていただいています。成人してOLを5年、中学・高校の時間講師を6年ほどしている中で、うつ状態となりました。ベンゾジアゼピン系薬物を含む多種の治療薬を10年以上にわたって内服しながら、外国人向けの日本語教師として社会復帰を果たす段階になり、「ものを見ていると、だんだん頭がムニョムニョしてくる」現象が突然出現しました。どこを受診しても、理由はわかりません。
症状は次第に進み、光に弱いことも自覚し、やがて私の外来を受診します。話から、ものを長く見続けることができないことはわかりますが、眼科医としてこの症状を医学的に定義したり、疾患名をつけたりはできかねます。もちろん、眼科で測定する視機能は正常ですし、眼球の診察でもどこにも異常は見当たりません。
この異常な感覚を人にわかるように端的に言うなら、「目が悪い」ということになりますが、法的な視覚障害者でも、常識的なロービジョン(低視力)者でもありません。
まさに冒頭に述べた、測定しがたい、あるいは追体験しがたい感覚異常がここにあります。数字や画像で示せないなら、言葉で表現するしかないかもしれません。でも、それではなかなか医学の 俎上 には載せにくいのです。
この女性の話は次回に続きます。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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