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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

目に見えず、測定できない感覚異常 医療現場で軽んじられがち

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視力は正常なのに「ものを見ていると頭がムニョムニョ」 疾患名つけられず

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 ここで、感覚異常は測れないし、他人にはなかなか想像ができないということの一つの例として、視力や視野がよくても、「見ることがつらい」という方の例を挙げたいと思います。

 その方は50歳代の女性で、現在は私どものNPO法人「目と心の健康相談室」でボランティアをしていただいています。成人してOLを5年、中学・高校の時間講師を6年ほどしている中で、うつ状態となりました。ベンゾジアゼピン系薬物を含む多種の治療薬を10年以上にわたって内服しながら、外国人向けの日本語教師として社会復帰を果たす段階になり、「ものを見ていると、だんだん頭がムニョムニョしてくる」現象が突然出現しました。どこを受診しても、理由はわかりません。

 症状は次第に進み、光に弱いことも自覚し、やがて私の外来を受診します。話から、ものを長く見続けることができないことはわかりますが、眼科医としてこの症状を医学的に定義したり、疾患名をつけたりはできかねます。もちろん、眼科で測定する視機能は正常ですし、眼球の診察でもどこにも異常は見当たりません。

 この異常な感覚を人にわかるように端的に言うなら、「目が悪い」ということになりますが、法的な視覚障害者でも、常識的なロービジョン(低視力)者でもありません。

 まさに冒頭に述べた、測定しがたい、あるいは追体験しがたい感覚異常がここにあります。数字や画像で示せないなら、言葉で表現するしかないかもしれません。でも、それではなかなか医学の 俎上(そじょう) には載せにくいのです。

 この女性の話は次回に続きます。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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