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医療・健康・介護のコラム
大谷、ダルビッシュも受けた「トミー・ジョン手術」って何?
「靭帯を再建すると球速が増す」は誤解
肘の靭帯の手術をした後、投手として復帰できるのですから、本当に素晴らしい手術だと言えます。しかし、「手術をしたら球速が速くなる」「パフォーマンスが上がる」という情報が流れ、米国でこの手術を受ける選手が低年齢化していることが問題となりました。術後に球速が上がるケースがあるのは、長いリハビリ期間に、肘や肩のみでなく、投球に必要な全身のコンディションを改善させた結果であり、靭帯を再建したからではありません。
それでは、Lさんの経過です。
肘の内側側副靭帯の手術を受け、約1か月間ギプスで固定しました。ギプスを外し、徐々に可動域を広げ、前腕の筋力を回復させていきました。股関節や体幹、胸郭などへのリハビリテーションを継続して行いました。4か月頃から投球動作を開始し、約1年後、投手としての投球が痛みなく可能となりました。
成長期の予防が大切
肘の靭帯が壊れたら取り換えればいい、というのは間違った発想です。肘の手術に至る選手の中には、小学校や中学校の時、すでに痛みが出ているケースも少なくありません。成長期は、靭帯が骨に付着する部位がまだ軟骨で、投球で引っ張られた結果、剥離を起こしていることもあります。肩や肘が痛くなってから治すのではなく、痛みが出ないための予防が大切です。肩や肘の痛みを減らすストレッチとトレーニングのプログラム「 Yokohama Baseball-9(YKB-9) 」は、日本から発信され、米国のスポーツ医学の雑誌にも掲載された研究成果です。また、大リーグは「Pitch Smart」というサイトで、年齢別の投球数のガイドラインやトミー・ジョン手術の情報などを発信し、啓発を行っています。日本にも、日本臨床スポーツ医学会が提唱したガイドラインがあり、1日当たりの全力投球数を小学生は50球以内、中学生は70球以内、高校生は100球以内にすべきと提言しています(下表)。夏の甲子園で、投球数のことが話題になることもありますが、実際は球数だけの問題ではなく、様々な観点からの議論が必要です。

私も参画している取り組みの一つに、 神奈川学童野球指導者セミナー があります。前回の三浦大輔さんに続いて、今回は元中日ドラゴンズの山本昌さんを招き、講演をしていただきます。学童野球に携わる指導者や保護者の方々にスポーツ医学の情報をお届けし、一緒に考える機会になればと思います。このような取り組みが、全国に広がってほしいものです。(大関信武 整形外科医)
【スポーツ医学検定のご案内】
私たちは、スポーツに関わる人に体やけがについての正しい知識を広めて、スポーツによるけがを減らすために、「スポーツ医学検定」を実施しています。スポーツ選手のみでなく、指導者や保護者の方も受けてみませんか(誰でも受検できます)。
11月25日の第4回スポーツ医学検定の申し込みは終了しました。
第5回の申し込み開始については、 ホームページ で案内します。
本文のイラストや写真の一部は、「スポーツ医学検定公式テキスト」(東洋館出版社)より引用しています。
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手術動画を見ると移植された腱の太さが元々有る腱に比べて細いように見えます。
実際はどうなのでしょう?骨と骨を繋いでる腱なので関節内のクリアランスが出てれば大丈夫という事なのでしょうか?
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