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精神科医・内田直樹の往診カルテ

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どう対応? 自殺リスク高い在宅患者

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10項目で自殺リスクを判断

 自殺は様々な要因が重なって生じます。対象となる方が自殺のリスクが高いかどうかを判断する方法として、SAD PERSONSスケールがあります。SAD PERSONSは、自殺の危険因子の頭文字を集めたもので、危険因子を把握し対応することに役立てることができます。具体的には、以下の通りです。

Sex(性別。男性の方が自殺するリスクが高い)
Age(年齢。20歳未満と45歳以上は自殺を図るリスクが高い)
Depression(うつ病)
Previous attempt(自殺を図った経験。危険因子の中で最も重要)
Ethanol abuse(アルコール、薬物の乱用)
Rational thinking loss(妄想、理性的な思考の欠如)
Social support deficit(社会的援助が得られていない)
Organized plan(自殺に関する緻密な計画)
No spouse(配偶者がいない)
Sickness(身体疾患)

薬物や刃物を遠ざけ、危険因子を排除

 SAD PERSONSスケールが3~4項目以上当てはまり、自殺のリスクが高いと判断されれば、まずは自殺の手段を遠ざける必要があります。具体的には、薬物を本人でなく家族や施設が管理する、ひも類や刃物、薬剤を手に届くところに置かない、ナースコールのコードを短くする、などです。

 また、危険因子の中で、周囲による働きかけが可能なものがないかも検討します。Aさんの場合、年齢(69歳で、45歳以上)、性別(男性)、うつ病、過去に自殺を図った経験、アルコール乱用、配偶者がいない、身体疾患(下半身不随)が当てはまります。このうち周囲が支援できる、うつ病のコントロールと飲酒をしないことの2点が重要になります。

「死の話題」避ける方が危険

 在宅医療や介護に関わっていると、目の前の方に「死にたい」と言われて対応に困るという経験をされていると思います。自殺の危険が高い人への対応姿勢としてTALKの原則があります。これも頭文字で4項目を並べています。

Tell(伝える)
Ask(尋ねる)
Listen(聴く)
Keep safe(安全を確保する)

 Tellは、「あなたのことが心配だ」「あなたのことが大切だ」と言葉に出して伝えることです。Askは、死にたいと思っているのか率直に尋ねることです。患者に「死にたい」と告白された時、多くの人は動揺し自分の対応が自殺の引き金となってしまうのではないかと恐れ、死についての話題をそらそうとしますが、それは誤りです。自殺予防の専門家の間では、「自殺や死について語ることが自殺を引き起こすことは絶対にない」と考えられており、むしろ死の話題を避ける方が自殺のリスクを高めることにつながります。

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 Listenは、相手の絶望的な気持ちを徹底的に傾聴することです。傾聴が難しいと感じる場合は、しばらくの間そばにいるだけでも効果があります。Keep safeは、自殺のリスクが著しく高いと判断した場合に本人の安全を確保することです。1人にせず、周囲の人の助けを得て適切に対処します。

 自殺関連行動への対応は緊急性を求められることが多いため、普段から対応する体制・システムを作っておくことが望ましいでしょう。(内田直樹 精神科医)

 「精神科医・内田直樹の往診カルテ」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

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内田直樹(うちだ・なおき)

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡県福岡市東区)院長、精神科医、医学博士。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院を経て、10年より福岡大医学部精神医学教室講師。福岡大病院で医局長、外来医長を務めた後、15年より現職。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医、NPO法人日本若手精神科医の会元理事長。在宅医療の普及を目指して「在宅医療ナビ」のサイト運営も行っている。編著に「認知症の人に寄り添う在宅医療」(クリエイツかもがわ)。

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