リフォームには介護保険を利用

　夢をかなえる選択、とはいえ、現実的な課題は無視できません。小野さんの場合、７６歳からの一人暮らしです。物件で最重要視したのは、バリアフリーであるかどうかでした。ほぼ理想に近いマンションを手に入れたものの、「ここは、マズいな」と思った部分が、２か所ありました。

　一つ目は、お風呂場の扉。老齢期に限らず、お風呂場の事故は多いそうです。転倒して動けなくなった場合、お風呂場の中側に開く一枚扉のドアだと、倒れた人がじゃまになって、外からドアを開くことができない可能性があります。そこで、介護保険の住宅改修費（上限２０万円、うち利用者負担は原則１割）を使って、中折れ扉にリフォームしました。

　「４０代が考えるリフォームは、『こんな素敵（すてき）なお部屋にしたい！』という夢のリフォームでしょ？（笑）　４０代は、それでいいの。でも、こと『老後住宅』という視点で物件を選んだり、リフォームをする場合、最初に確保すべき項目は安全です」（小野さん）

　二つ目の問題点は、廊下から洗面所への動線に段差がある点。多くのマンションが、防水面への配慮から段差がある造りになっています。改善策として、廊下にある洗面所の電源のスイッチの上に、小さな手すりをレンタル（月額利用料金３００円）で付けてもらいました。

　洗面所に行く時は、必ず手すりにつかまった後に電源スイッチを入れる。そうした動作の流れを決めると、次には、足元の段差に意識がいくようになりました。爪先をぶつけることも防ぐことができているそうです。設備を付けるだけではなく、それらを使って安全な生活を確保できるよう、「体に覚え込ませる」のが大事なのだそうです。

「自分」が主語の人生を生きるために

ファイナンシャルプランナーとして、一人の女性として、常に道を切り開いてきた小野さんの歴史が詰まった写真たち

　小野さんが、一人暮らしの家で電源スイッチをパチッと入れている姿を想像すると、「覚悟」という言葉が思い浮かびました。

　「老後資金って、お金のことだけを考えていればいいんじゃないのよ。体とお金の話なの」と小野さんは言います。老後の体力の衰え、知力の衰えは、必ずやってくるものと覚悟しなければいけません。自分の老後にはどんな住宅がいいのか、そのイメージはクリアに持っておく必要がありそうです。

４０代の私たちは３０年後、どんな「覚悟」を持って生きているのでしょうか

　私と小野さんとの年齢差は、ちょうど３０歳。３０年後の私は、「おばあちゃん」という呼び名でくくられるような自意識になっているのでしょうか？　それは、ちょっと難しいような気がしました。今だって、「母」であり、「妻」であることも大事だけれど、やっぱり「自分」として生きていたいと思うのですから。そのために、今からできることは何なのか……そんなことを考えた秋の夜長でした。（楢戸ひかる　マネーライター）

　　イラスト：西島秀慎