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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

ダウン症児は「不幸な子ども」なのか? 出生前診断は「不良な子孫の出生を防止する」優生思想と背中合わせ

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 最近の報道で、旧優生保護法によって強制的に不妊手術を受けた人が、国家賠償訴訟を起こしていることが伝えられています。この問題に対しては、障害者の人権に関心を持つ人たちから、20年も前から抗議の声が上げられていました。今になって広く報道されているのは、問題が訴訟という形に発展したからです。

旧優生保護法のもと約1万6500人に強制不妊手術

 1948年に制定された優生保護法は、主に二つの特徴がありました。一つは、条件付きで人工妊娠中絶を認めたことです。戦後の日本は、満州国の崩壊や東南アジアからの軍人の引き揚げによって、爆発的に人口が増加していました。これを抑制する手段として、人工妊娠中絶が解禁されたのです。その当時、中絶が合法化された国は世界的にまだ少なかったため、日本は「中絶大国」との汚名を浴びせられましたが、これは昔の話です。

【名畑文巨のまなざし】
ポジティブエナジーズ(その12) 世界をめぐり撮影したダウン症の子どもたちは、みなポジティブなエネルギーにあふれていました。南アフリカのタペロくん、いつもおどけて家族の笑顔を誘う人気者です。家族にとってかけがえのない存在で、みんなに見守られているのがよくわかりました。一緒に駆けっこしたお姉ちゃんも、タペロくんに先を譲りながら走ります。おかげで彼は、ご機嫌でゴールしていました。南アフリカ共和国プレトリア市にて

 そしてもう一つの特徴が、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止すること」を目的に、精神疾患の人や知的障害者、遺伝性疾患がある人に対する強制不妊手術が法に定められたことです。この法律が廃止になったのは96年です。つい最近のことです。

 この法律によって、およそ84万5000件の不妊手術が行われました。そしてそのうちの約1万6500人が、本人の同意を得ない強制手術だったとされています。

ナチスの蛮行後、世界は優生思想との決別へ向かったが…

 優生思想とは元々、人の遺伝構造を改良することで人類の進歩を促そうという思想です。平たく言えば、優秀な人間をどんどん増やしていくという考え方です。これを「積極的優生思想」と言いますが、現実にはそういうことはできません。そこで、代わって出てきた考え方が、「消極的優生思想」です。これは、「劣った人」を少なくしていこうという考え方です。劣った人にカッコを付けたのは、もちろん偏見に基づいているからです。

 イギリスで生まれた優生思想は、海を渡り、戦前のアメリカで発展します。当時のアメリカは、欧州から移民を大量に受け入れていました。アメリカは、「劣った人」が国内で増えることを抑制するため、移民には家系図を作って「劣った人」をあぶり出しました。そして、その「劣った人」に対して不妊手術を行いました。

 アメリカの「消極的優生思想」は、ヨーロッパ大陸に再上陸します。そして最悪の形で広がります。ナチスドイツの思想です。ナチスは精神障害者や知的障害者を隔離し、拘束し、殺害しますが、やがてそれは、ユダヤ人を丸ごと虐殺するという人類史上最悪の悲劇につながります。

 戦後時間を経て、ナチスの蛮行が徐々に明らかになると、世界は優生思想と少しずつ決別する方向へと向かいます。しかし、優生思想は完全に消えたわけではありませんでした。「不良な子孫の出生を防止」するために、ターゲットが、大人から胎児へと変わっていったのです。

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inochihakagayaku200

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

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5件 のコメント

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隣の優生思想と隠れたインテリジェンス戦争

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

優生思想=ナチス=選民思想という図式は我々の頭の中にありますが、そもそもどこの国も、その他の生物ではなく、その国の人間やその一部を優秀としその発...

優生思想=ナチス=選民思想という図式は我々の頭の中にありますが、そもそもどこの国も、その他の生物ではなく、その国の人間やその一部を優秀としその発展を目指す、ある種の優生思想にあり、原理主義的暴走を許容する事は色々な意味で危険です。
受験でスポーツ実績で進路やその先の就業の大半が決まる日本社会もある種の優生思想でしょう。
(一方で、欠点はあっても、ある程度客観的に近い枠組みでの選別や選抜は必要)
しかも、私立医大や旧帝大の不正入試や入試ミスも発覚しました。
言い換えれば、選抜の客観性を歪める素因が多々存在するということです。
人がお金・権力や血の繋がりの神話を愛する限り、個人と組織の目的意識や評価基準を歪める人や組織も現れるでしょう。
それをどの程度許容するかは答えのない問題です。

今後は人工知能の欠点や専門的な知識や運用をめぐって、毒が混ぜられる可能性はあります。
その中でエラーの可能性や、途中経過や結果のエラーの扱いも難しいです。

「人工知能に入れたデータで貴方(あるいは子供)の死亡が推奨されました」という意見に対して、我々はどうするでしょうか?
社会システムが硬直していれば、そのハッキングだけで一国を滅ぼすことも可能です。

日本は障害者福祉政策も比較的悪くないですから、線引きが政治に絡みます。
老人にとって直接生産性に乏しい各種障害者は同じインフラや苦悩を共有する仲間なのか、自分や子孫と同じ経済パイを奪い合う敵なのか、人によって考えも異なるでしょう。

普通の人の日常は半径の自分の経験に基づいた信念や気分のウエイトも大きいと思いますが、無自覚な毎日の中で何が起こっているのか考えるべきでしょう。
障害者や欠点のある人間を愛さなくとも危害を加えないという姿勢がないと、いつか自分や家族が立たされるかもしれないと事をどうやって伝えるか?
敵は人間ではなく、無知や傲慢です。

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たまたま健康に生まれてきただけ

もっちもち

私はたまたま健康に生まれてきましたが、それは単なる偶然であり、私自身の努力ではないことは明らかです。誰にでもダウン症で生まれてきた可能性があるこ...

私はたまたま健康に生まれてきましたが、それは単なる偶然であり、私自身の努力ではないことは明らかです。誰にでもダウン症で生まれてきた可能性があることは否定できないわけで、親には自主決定権があるのに生まれて来る子どもにはその権利がないことを考える時、もしかしたら今ここに自分がいないかもしれなという恐怖を感じます。このテーマをわが事として考える時、その人が親の立場でい考えているのか、それとも子どもの立場で考えているのかで意見が分かれるでしょう。どんな人も子どもでした。しかしそれを覚えている人は少ないと感じます。
社会人になった息子と娘には、公立の小中学校でダウン症の友達がいました。彼らから、そしてその親御さんたちから、私たちは本当にたくさんのことを学んでいます。大事な友達です。

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医学の傲慢さ

ブラックジャック

この問題をとってみても、医学は自分勝手だと思う。 出生前診断だけでなく今やヒトのDNAの解析でガンの因子や頭の良し悪しまで分かるという。これは人...

この問題をとってみても、医学は自分勝手だと思う。
出生前診断だけでなく今やヒトのDNAの解析でガンの因子や頭の良し悪しまで分かるという。これは人間の優劣を判定することであり、医学の進歩そのものが優生思想を炙り出しているのではないのか。
そしてダーウィンの進化論を論ずるまでもなく、神は人間の愚かしい優生思想に頼らずとも適者生存によって環境適応できる種を保存してきたのに、医学はこれを曲げたために自ら問題を背負うことになったのではないか。
出生のコントロールを否定するなら延命もまたしかりである。
命を延ばすだけの医学の進歩は自然の掟破りであり必ず反作用を生む。手塚治虫が「ブラックジャック」で主人公と反対に安楽死を商売とするドクター・キリコを配したのはまさに慧眼である。

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