文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

網膜剥離 手術で治したのによく見えない……実は「目鳴り」だった

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

左右の目からの画像が脳内でうまく統合されず、「混乱視」

id=20181001-027-OYTEI50017,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

 両目に入った視覚信号は、左右別々の神経ルートを通って、後頭葉にある第一次視覚中枢に至り、左右の信号が統合され、さらに高次の脳で解析、認識されて初めて意味のあるものとして見えることになります。ところが、Eさんの場合、右目はよく見えているのに、左目の見え方の質がよくない。片眼から質の悪い画像が脳に入ってくると、左右の目の像はうまく統合されず、まぶしい、目が痛い、さらには片目をつぶってしまう、疲れる、元気がなくなるなどの拒否反応、回避反応が出るのです。私は、これをわかりやすく「目鳴り」と称したのですが、「混乱視」「視覚ノイズ」といった言葉のほうが、医学用語的かもしれません。

 目鳴りがしている目に眼帯(デザイン眼帯など)をする、光を遮断したレンズ(外見上隠していることが目立たない遮へいレンズを私は東海光学というレンズ会社と協力して作成、「オクルア」の商品名で利用できます)を使うことにしました。すると、次の電話で本人はすごく改善して、生活が楽になったとうれしそうに報告してくれました。

 ところがです。そのうれしさを手術医に報告したところ、顔色を変えて激怒され、もう来ないでよいとまで言われたとのことです。

患者の実感を敏感にくみ取る能力 眼科医には必須

 その医師にとってみれば、自分が手術して治した目を、Eさんは使わない工夫をしたのですから、相当プライドを傷つけられたのでしょう。聞けば、網膜 硝子体(しょうしたい) 手術では名声のある医師でした。しかし、患者の混乱視のつらさまでは理解できなかったのでしょう。

 技術は超一流でも、視覚のような機能を扱う眼科医という職種では、患者の実感というものをもっと敏感にくみ取れる能力が必須だと思うのですが、これは臨床教育の問題なのか、患者主体でなく、どうしても医師主導になりがちな日本の医療に内在する歴史的問題なのかと、はたと考えてしまいました。

 Eさんは、その医師には「すみません」と謝り、廊下に出るやいなやオクルアを装用したということです。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

心療眼科医・若倉雅登のひとりごとの一覧を見る

最新記事