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その医療 ホントに要りますか?

コラム

認知症治療薬がよく効く患者は40人に1人だけ!? フランスは保険の対象外に

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 高齢化とともに増え続ける認知症。治療には複数の薬が開発され、世界中の医療現場で使われています。ところが、フランス政府は今年8月、これらの治療薬を全て公的医療保険の対象から外しました。いったいなぜ保険が利かなくなったのでしょうか。

当初は高評価 35%の自己負担で使えたが…

 これらの薬は、ドネペジル(商品名アリセプト)、ガランタミン(同レミニール)、リバスチグミン(同イクセロン)、メマンチン(同エビクサ)の4種類で、日本でもアルツハイマー型認知症の薬として使われています(メマンチンは日本では「メマリー」の名称で販売)。

 フランスは、日本と同様に公的医療保険制度が行き渡っており、患者は低い自己負担で医療を受けることができます。日本との違いは、薬によって患者の負担割合が異なることです。

 日本の医療保険では、医薬品として承認されると、患者は原則として一律3割負担となります。一方、フランスでは、薬を重要度によって「主要」から「(有用性が)不十分」まで5段階に分類し、患者の自己負担割合に0%から100%まで差をつけています。例えば、最重要の「主要」に分類され、高額で不可欠な薬なら、患者は自己負担なしで使えますが、「不十分」だと保険が使えず全額自己負担になります。

 アリセプトなど4剤は当初、「重要」という評価を受け、患者は35%の自己負担で使うことができました。日本の3割負担に近い水準です。

効果は限定的 生活の質改善には疑問視

 ところが、その後の再評価で、これら4剤は、有用性が限定的で、短期間の認知機能の改善にとどまると判定されました。「患者が介護施設に入るのを遅らせる(家庭生活が長く送れる)」「QOL(生活の質)を改善する」「寿命を延ばす」といった長期の効果については明らかではない、との判断でした。

 QOLは、歩ける、身のまわりのことができる、といった身体機能と、不安や不快感などの精神状態の双方を含む「生活の質」を指します。患者や家族にとって重要な要素に対する効果が疑問視されたわけです。

 さらに、これらの薬による消化器や循環器、精神神経系への副作用も問題視されました。認知症は高齢者に多いうえ、ほかにも何種類もの薬を服用している場合が多く、副作用が表れやすいためです。

 このため、有用性の評価が2度にわたって引き下げられ、2016年に最も低い「不十分」となって、今年8月から保険の対象外になりました。薬の承認が取り消されたわけではありませんが、使う場合は全額自己負担になりました。

 フランスでは「薬物療法が認知症ケアに果たすべき役割は失われた」とまで判定されました。フランスの新しい治療指針では、薬物療法に代わって、介助者への支援を含めた包括的なケアを勧めています。

 東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐 (あたる) 特任准教授(医薬政策学)は「薬の承認後に何年たっても、QOLなど患者にとって重要な効果のエビデンス(科学的根拠)が得られなかったために保険適用から外された。副作用に比べて有効性が乏しい、という判断で、日本でも真の有効性と安全性のバランスを再評価すべきではないか」と言います。

専門医の実感 「効果がある患者は1~2割」

 実のところ、これらの薬の効果は、以前から限定的だとみられていました。

 アリセプトなどの薬には、認知症を完治させる効果はなく、症状の進行を数か月から1年ほど遅らせる程度にとどまるとされています。ある専門医は「効果が見られるのは、患者全体の1~2割」と言います。

 4剤のうち、例えばリバスチグミンの場合、実際に患者に使って有効性を調べる国内での臨床試験で、薬効のないプラセボ(偽薬)と比較したところ、認知機能検査では改善効果が見られたものの、日常生活動作など全般的な臨床症状の改善度に関しては、プラセボと差がありませんでした。明確な効果が見られなかったということです。ガランタミンやメマンチンも、同様に国内の臨床試験では臨床症状に十分な効果を示せませんでした。

 それでも医薬品として承認されたのは、これらの薬が海外で使われている、という事情からでした。

 兵庫県立ひょうごこころの医療センターの小田 陽彦(はるひこ) ・認知症疾患医療センター長が、認知症治療薬の有効性を調べた国内外の臨床試験結果を総合的に分析した結果、薬を使って高い効果があった患者の割合は、40人あたり、わずか1人に過ぎませんでした。多少は効果が見られた患者でも、7人に1人程度にとどまりました。これは、「効果がある患者は1~2割」という専門医の実感にも合致します。

日本では85歳以上の17%が使用 見直し必要

 ところが、実際には多くの患者に薬が使われています。

 医療経済研究機構のチームが、全国の医療機関のレセプト(診療報酬明細書)データなどを基に調べたところ、85歳以上の人口の17%に認知症治療薬が処方されていました。これは、オーストラリアに比べて5倍の多さです。

 このデータだけでは、実際に患者の何割に薬が処方されているかは分かりませんが、85歳以上では半数程度の人が認知症になるとされているので、仮に85歳以上の半数が認知症で、その全員が医療機関にかかるとすれば、患者の約3分の1に薬が処方されている計算になります。ただ、認知症になっても全員が受診するわけではないので、認知症で医師にかかった人には、それよりかなり高い割合で治療薬が処方されていると考えられます。

 実際に薬が効くのは一部の人だけですから、多くの患者は、効果が見られないまま漫然と薬を処方されている、という実態が浮かび上がってきます。

 薬を偏重した認知症の治療を見直す必要がありそうですね。(田中秀一 読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)

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tanaka200

田中秀一 (たなか・ひでかず)

 医療情報部(現医療部)、社会保障部、論説委員、編集局デスクを経て現職。長期連載「医療ルネサンス」を18年担当、現代医療の光と影に目を凝らしてきた。「納得の医療」「格差の是正」をテーマとしている。

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2件 のコメント

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認知症での運動療法の意義と社会形成の問題

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

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より廉価で、汎用性の高いはずの運動療法や作業療法に向かわないのには政治や国民性も関係してそうですね。

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