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オプジーボ治験に「余命1年」がん患者…予想外の高い効果で実用化の弾みに

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 今年のノーベル生理学・医学賞を受賞する京都大特別教授の 本庶ほんじょたすく さん(76)の研究から生まれたがん治療薬「オプジーボ」は、発売から4年で60か国以上に広がった。多くのがん患者の福音となった薬は、発売前の臨床試験(治験)で末期患者に表れた「予想外」ともいえる高い効果が弾みとなり、世に送り出された。

 オプジーボの効果や安全性を調べる治験が始まったのは2008年。国立がん研究センター中央病院(東京)の患者17人が対象となった。どの患者も、肺や大腸などのがんが転移し、打つ手がないとされていた。

 その中に、皮膚がんの一種「メラノーマ(悪性黒色腫)」を患う30歳代女性がいた。余命1年とされた末期患者。皮膚腫瘍科の山崎直也科長(58)は「新薬にかけたい」と女性に打診し、治験に参加してもらった。

 メラノーマは、皮膚のメラニン色素を作る細胞ががん化して起こる病気で、転移した場合の5年生存率は約1割にとどまる。患者数は10万人に2人と少ないため、製薬企業は創薬に消極的で、有効な薬はなかった。

 オプジーボは、体がもともと備える免疫の攻撃力を高めるタイプの薬だ。メラノーマは免疫に反応しやすいことが知られ、山崎さんは望みを抱いていた。

 09年秋、投与が始まると、徐々にがんが縮小。3年後、画像検査で見えるがんは全て消え、投薬を終えた。治験を実施した小野薬品工業(大阪市)の担当者も「想像を超える効果だった。この1例で薬への期待がぐっと高まった」と振り返る。

 小野薬品は14年、まずメラノーマの薬としてオプジーボを発売。その後、他のがんにも次々と適応を拡大し、今では国内で7種類のがんに使えるようになった。

 女性はがんの再発で、最初の投与から7年後に亡くなったが、その間、一杯飲み屋を開店するなど、やりたかった仕事にも挑戦できた。山崎さんは「手の施しようがない状況でも、この薬で大幅に命を延ばせると実証してくれた」と話す。

 山崎さんは、これまで進行性のメラノーマの患者約200人にオプジーボを投与。米国では5年以上生存する人が3割を超えるという報告もあり、変化の大きさを実感している。

 16年、ある式典のパーティーで本庶さんと会い、初めて言葉を交わした。「先生のおかげで多くの人が救われています」と声をかけると、本庶さんは「そうか、そうか」と笑顔で聞いてくれたという。山崎さんは「『治癒率を高めたい』という本庶先生と同じ気持ちで、現場の医師も頑張っていきたい」と語った。

          ◇

【メラノーマ】  皮膚がんの一種で、国内では患者数が約4000人の希少がん。足の裏や手のひら、爪のほか、口や鼻の粘膜にもできる。手術でがんを切除できれば完治を望めるが、外見を損ねる恐れがある。進行が早く、転移すると治療が難しい。近年、薬の開発が進み、三つの免疫治療薬と三つの分子標的薬が承認された。

 

治癒率向上、併用がカギ

 

 オプジーボの課題は、効果のある患者が2~3割にとどまることだが、メラノーマでは、治癒率を高める取り組みがいち早く進む。

 がんの免疫治療薬には、オプジーボのほか、本庶さんとノーベル賞を共同受賞するジェームズ・アリソン氏の研究から生まれた「ヤーボイ」などがある。

 メラノーマは国内では、複数の薬を併用することが、がんで唯一認められており、治験ではオプジーボとヤーボイの併用で患者の約4割でがんが縮小した。海外では、約6割の患者に効果が出たという報告もある。

 副作用が強まるなどの課題もあるが、現在、国内外で胃がんや肺がんなどあらゆるがんで免疫治療薬と別の薬との併用を試す治験が進んでおり、併用が難治の壁を越えるカギになると専門医らは注目する。

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