文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

安心の設計

ニュース・解説

介護と仕事(上)働き続ける道 見えなかった

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

妻は要介護3 誰にも相談せず退職

介護と仕事(上)働き続ける道 見えなかった

妻のよし子さん(左)の食事を介助する神谷さん(さいたま市で)

 働き盛りの世代が家族の介護をするケースが増えている。仕事と介護の両立には困難が伴い、毎年約10万人が介護のため仕事を辞めている。一方、様々な支援や工夫で乗り切る人も。仕事と介護の現状と、両立に向けた取り組みを2回にわたって考える。

 「会社を辞めて本当によかったのか。ほかに選択肢があれば、辞めずに済んだのかもしれない」

 さいたま市の元会社員、神谷之雄さん(56)は、自分の決断が正しかったのか、今も結論が出ていない。

 昨年3月末、妻のよし子さん(56)の介護に専念するため、大手運送会社を退職した。妻は神経難病で認知症の症状もあり、介護保険では要介護3とされている。退職で収入が途絶え、妻の障害年金や同居する社会人の娘2人からの援助、これまでの貯金で生活している。

 妻の異変に気づいたのは2015年9月頃。ショッピングセンターのエスカレーターの前で妻が突然、足を止めた。「怖くなっちゃって」とつぶやいた。

 冷蔵庫の扉や水道の蛇口が開けっ放しのこともあり、心配で病院に行くと、認知症と診断された。診断の翌日、職場の上司に報告しながら涙があふれてきた。

 早く帰れるように出勤時間を午前6時半に早めてもらった。ケアマネジャーと相談し、週1回のデイサービスと、訪問リハビリを利用することにした。

 帰宅すると、妻は真っ暗なリビングでソファに腰掛けていた。着替えや入浴も手助けが必要で、妻の代わりに慣れない料理や洗濯に追われた。

 職場では、貴重品の輸送警備業務の責任者。しかし、日々状態が悪くなる妻を見て、「仕事を辞めて、妻の面倒を見た方がいいのでは」と思うようになった。

 仕事中も通勤の途中も、妻が気になった。「ご飯食べた?」「何してるの?」。妻の携帯にメールを送っても、返信は意味不明な文字の羅列。仕事に身が入らず、業務が遅れた。

 妻が体調を崩した時は仕事を休んだが、同僚には事情を隠し続けた。「迷惑をかけている」と感じ、次第に職場に居づらくなった。「自分で妻を介護する」との思いにとらわれ、ケアマネジャーや職場には相談せず、退職を決意した。

 退職から3か月後、少しでも収入を得ようと、自宅近くのデイサービスで送迎車を運転するアルバイトを始めた。妻のデイサービスを週5日に増やし、不在の時間に毎日6時間働いた。

 しかし、体力が続かなかった。毎晩、妻が何度もトイレに起きるため、睡眠不足になった。妻に「少し我慢してよ」「俺は休めないのか」と強くあたっては後悔を繰り返した。今年5月、アルバイトを辞めた。

 ケアマネジャーから「奥さんと距離を置いたほうがよい」との助言を受け、介護疲れをいやすため、現在はショートステイ(短期入所)も利用している。

 最近、介護者の集いに招かれて経験を語る機会を得た。「仕事を辞めて、社会とのつながりを失って寂しかったが、取り戻した気持ち」という。

 職場やケアマネジャーに相談したり、介護サービスを増やしたりすれば会社を辞めない道があったかもしれない――。「今ならそう思える。でも、すべてを一人で背負い、余裕を失って周りが見えなかった」と振り返る。

介護しながら就労 346万人

id=20181015-027-OYTEI50002,rev=5,headline=false,link=true,float=right,lineFeed=true
id=20181015-027-OYTEI50003,rev=4,headline=false,link=true,float=right,lineFeed=true

 総務省が5年ごとに公表する就業構造基本調査によると、介護をしながら働く人は2012年に291万人(仕事を持つ人の4.5%)だったが、17年には346万3000人(同5.2%)に増えた。

 一方、家族の介護や看護が理由で離職した人は17年に9万9000人。12年の10万1000人とほぼ横ばいだった。介護離職者のうち計55%が、40歳代と50歳代の働き盛り世代だった。

 みずほ情報総研が、介護離職した1000人の元正社員に行った調査(16年)では、48%が辞める前に「誰にも相談しなかった」と回答。「職場の上司や人事部」に相談したのは24%、「親族」は13%、「ケアマネジャー」は11%だった。

 就労の継続が難しかった理由(複数回答)は「体力的に両立が困難」(40%)が最多。「介護は先が読めず、両立の見通しが困難」(32%)、「自分以外に家族で介護を担う人がいなかった」(29%)が続いた。

 介護離職の防止に取り組むNPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さんは「自分で直接介護をしようと思うと、離職につながりやすい。日常の介護はプロの力を借り、旅行や趣味の活動など、家族にしかできない支援に力を注いでみては」と助言する。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

安心の設計の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事