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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

睡眠不足と週末寝だめで陥る「社会的時差ぼけ」 4時間のズレはパキスタン往復と同じ負担…糖尿病、うつのリスクも

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。今回は「社会的ジェットラグ」を取り上げます。ジェットラグとは時差ぼけのこと。社会的ジェットラグとは「国内にいながら」時差ぼけが生じる現象をさします。時差ぼけの原因は海外旅行だけではありません!

時差ぼけは体内時計と睡眠時間のずれから

 多くの人がアメリカやヨーロッパなど海外旅行に出かける時代です。旅先で、「眠い」「だるい」「食欲がない」などの時差ぼけ症状に悩まされた方も多いと思います。時差ぼけのメカニズムは複雑ですが、ごく簡単に表現すると「体内時計と睡眠のタイミングがずれる」ために起こります。

 私たちの体内では、夜間に体温(脳や内臓の温度)が低下し、睡眠を促すホルモンが増加して眠りやすくなります。逆に、日中には体温や血圧が上昇し、覚醒度を高めるホルモンが分泌されるなど、活発に活動するための体内環境が整えられます。このように、さまざまな生体機能が適切なタイミングでアップダウンすることによって私たちの健康的な生活は支えられており、そのタイミングを調整しているのが体内時計なのです。

 ところが海外旅行に出かけた時は、このような体内時計と寝起きする時間帯との相互関係が、一気に崩れてしまいます。例えば、ニューヨークへの旅行を考えてみましょう。

 ニューヨークと日本の時差は13時間です。飛行機で現地に到着すると、昼夜が完全に逆転します。ニューヨーク時間の日中、観光のために起きて動き回るわけですが、体内時計、すなわち生理機能リズムは日本時間のままです。深夜のコンディションのまま観光するわけだから、眠く、だるいのも当然ですよね。これが時差ぼけの第1の原因です。

 時差ぼけの第2の原因は、さまざまな生理機能リズムの間でも時間関係が乱れてしまうことなのですが、今回は詳しい説明は省きます。

 体内時計がニューヨーク時間におおむね合うようになるには、10日以上もかかります。そのため、たいがいの旅行者は、時差ぼけが解消されないうちに帰国することになります。

夜勤も「社会的ジェットラグ」の一つ

 さて、勘のよい方は、ニューヨーク旅行の時差ぼけは、仕事の「夜勤」と同じ状態だと気付いたと思います。体内時計と睡眠リズムの時間関係を人為的に乱すという点では、まったくその通りです。国内にいながらにして時差ぼけが生じるという点では、夜勤も「社会的ジェットラグ」の一つと言えます。ただし、今回紹介するのは、私たちの多くが経験しているにもかかわらず、「気付きにくい」時差ぼけです。

自分の時差ぼけ度は測れる

 週末に寝だめをする習慣がある、という方は多いでしょう。こうした方は、多かれ少なかれ社会的ジェットラグに陥っています。図の例を参考に、ご自分の時差ぼけ度を計算してみてください。睡眠時間帯は日々、ある程度変動しますが、計算する時には標準的な平日と休日の睡眠習慣を思い浮かべましょう。

社会的時差ぼけの計算法(簡略版)

(1) 時差ぼけ0時間の例

平日:23時に寝て、7時に起きる(睡眠時間8時間)
→ 平日の睡眠中央時刻:3時

休日:23時に寝て、7時に起きる(睡眠時間8時間)
→ 休日の睡眠中央時刻:3時

(2) 時差ぼけ2時間の例

平日:1時に寝て、7時に起きる(睡眠時間6時間)
→ 平日の睡眠中央時刻:4時

休日:2時に寝て、10時に起きる(睡眠時間8時間)
→ 休日の睡眠中央時刻:6時

(3) 時差ぼけ4時間の例

平日:1時に寝て、6時に起きる(睡眠時間5時間)
→ 平日の睡眠中央時刻:3時30分

休日:3時に寝て、12時に起きる(睡眠時間9時間)
→ 休日の睡眠中央時刻:7時30分

 いかがでしたか? 「2時間」「3時間」など、思いのほか時差ぼけが大きかった方は、ぜひこの後も続けて読んでください。

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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