いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓
医療・健康・介護のコラム
腸が胸に入り込み、肺がほとんどない超重症 先天性横隔膜ヘルニアの赤ちゃんを救うには…
胎児超音波(エコー)検査の普及によって、先天性横隔膜ヘルニアの治療成績は大きく変わりました。先天性横隔膜ヘルニアとは、以下のような病気です。
人間の胸とおなかを隔てる筋肉の膜を、横隔膜と言います。先天的に横隔膜に 孔 が開いていると、この孔を通して腸が胸の中に入り込みます。腸は肺を圧迫しますので、赤ちゃんは重度の呼吸障害になります。
搬送中に呼吸不全 救命は難しく
こういった赤ちゃんが町の産院で生まれると、救命は非常に難しくなります。大学病院に搬送されてくるまでの間に、赤ちゃんは全身がチアノーゼになっていて、呼吸不全や血液の循環不全を併発してしまいます。大学病院で赤ちゃんの到着を待っている私たちは、ただちに赤ちゃんを人工呼吸器につなぎ、緊急に手術を行って横隔膜の孔を閉じます。ですが、すでに赤ちゃんの具合は悪くなっているため、術後すぐに回復するとは限らず、救命できないケースも多々ありました。
ですから、もし胎児エコー検査により、生まれる前に先天性横隔膜ヘルニアを診断できたならば、腹壁異常の赤ちゃんのケースと同じように母体を搬送し、帝王切開で取り出すと同時に赤ちゃんの治療を始めれば、治療成績は向上すると私たちは考えたのでした。
エコーで胎児を診断 治療成績は上がると思ったが…
胎児エコー検査で赤ちゃんの胸の中に腸が入り込んでいる像を認めると、先天性横隔膜ヘルニアと診断し、産科と小児外科で合同会議を開きます。産科医と小児外科医が全員そろっている日を選んで帝王切開を行い、赤ちゃんを誕生させます。手術室には小児外科医が待機していて、すかさず赤ちゃんに気管内挿管し、酸素バッグを押します。そのままNICU(新生児集中治療室)へ運び、呼吸管理や循環管理を始めるのです。
ところが、こうした試みを行っても、赤ちゃんの呼吸状態はまったく改善せず、循環状態もどんどん悪くなっていくパターンが続出しました。これは私たちの施設だけの話ではありません。日本全体の横隔膜ヘルニアの成績が悪化したのです。
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