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【PR】外股歩きも症状の一つ。治療で改善が見込める認知症の原因、特発性正常圧水頭症(iNPH)
年齢を重ねると「歩幅が狭くなる」「足が上がりにくくなる」などといった歩き方の変化がみられることはよくあります。
「年のせいだろう」と軽く考えがちですが、実は頭の中にある髄液が過剰に溜まる水頭症が原因で歩行障害が起きている可能性があります。放っておくと症状が進行し、歩行が困難になったり、認知症が表れ、寝たきりになることも……。
今回は、高齢者に多くみられる「特発性正常圧水頭症(iNPH:とくはつせい せいじょうあつ すいとうしょう)」について東京共済病院脳神経外科部長 鮫島直之先生に解説していただきます。
高齢者に多い「特発性正常圧水頭症」
「水頭症」は、脳や脊髄(背骨の中を通っている神経)の周りに存在する脳脊髄液(髄液)が過剰に溜まることで起きる病気です。髄液は頭蓋内で産生されますが、髄液の循環や吸収が滞ると脳室などが拡大し、脳を圧迫するため、さまざまな症状が引き起こされます。
水頭症には、小児の水頭症で脳圧が高くなる高圧性のものと成人の正常圧のものがあります。正常圧水頭症のうち、くも膜下出血や頭部外傷といった明らかな原因がないにもかかわらず、脳室の拡大が認められ、歩行障害や認知障害、尿失禁などの症状がみられるものを「特発性正常圧水頭症(idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus:iNPH)」と言います。
日本では65歳以上の高齢者の1.1%に特発性正常圧水頭症がみられるとの報告があり、37万人以上の患者さんがいると考えられています(「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン第2版」(日本正常圧水頭症学会 特発性正常圧水頭症診療ガイドライン作成委員会/編), メディカルレビュー社, 2011)。
主な症状は?
特発性正常圧水頭症では、脳が圧迫されることでさまざまな症状がみられますが、主に歩幅の減少などがみられる「(1)歩行障害」、記憶力の低下などがみられる「(2)認知障害」、頻尿などがみられる「(3)排尿障害」の三つに分けられます。
これらのうち、最初に表れることが多いのが「歩行障害」です。小股のよちよち歩きになり、足先が少し開き気味(外股)になるのが特徴です。また、特にUターンのときに歩行が不安定となって転倒することもあります。
その後「認知障害」が表れ、物忘れのほか、何かをする意欲がなくなったり、集中力が低下したり、時に怒りっぽくなるケースもあります。
また、「排尿障害(頻尿/尿失禁)」も表れ、外出も難しくなります。数か月単位でこれらの症状は悪化し、放置すると寝たきりになるため、早期に気づくことが非常に重要です。
症状が表れる順番や程度は個々の患者さんによって異なるものの、歩行障害は患者さんの90%以上に表れるという報告もあります(「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン第2版」)。
「歩き方の変化」に加えて、その他の症状もみられるような場合には、病院を受診してみると良いでしょう。
特発性正常圧水頭症の検査は?
特発性正常圧水頭症が疑われる場合、前述した症状の有無を確認した上で、次のような検査が行われます
■画像診断
CTやMRIにより、特発性正常圧水頭症に特徴的な画像の変化がみられないかを調べます。具体的には脳室の拡大のほか、脳と頭蓋骨の間の隙間や脳のしわにあたる脳溝が狭くなる、脳の左右にある「シルビウス裂」という溝が大きくなるなどの変化がみられます。
■髄液タップテスト
画像診断を行った後、一般的に髄液タップテストが行われます。背骨の腰の部分にあたる「腰椎」に針を刺して、過剰になっている髄液を少量(30ミリ・リットル程度)抜いて、症状が一時的に改善するかどうかを確認します。1回のタップテストで改善が確認されることもあれば、複数回行って徐々に改善し、診断がつく場合もあります。
歩行障害で9割前後、認知症と尿失禁で7割前後の改善…「髄液シャント術」
特発性正常圧水頭症の治療では、「髄液シャント術」という手術が行われます。頭蓋内に過剰に溜まっている髄液を、シャントカテーテルによって腹腔や心房などに導くことで、脳への圧迫をなくし、症状を改善させます。シャントカテーテルには、流量を細かく調整できるバルブが用いられます。
手術でシャントカテーテルを埋め込む際には、カテーテルを脳室からお腹の内側の空間(腹腔)へ通す「脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)」と、脳室から心臓の心房へ通す「脳室-心房シャント(V-Aシャント)」、腰椎から腹腔まで通す「腰椎-腹腔シャント(L-Pシャント)」の3種類の方法があります。
現在は、患者さんの負担が少なく、安全性も高い「腰椎-腹腔シャント」が主流となっています。髄液シャント術を受けた場合、手術が終わって数日で症状が改善する場合もあれば、数週間~数か月かけて徐々に改善がみられるケースもあります。
改善の程度などは、患者さんによって異なりますが、歩行障害で9割前後、認知症と尿失禁で7割前後に改善がみられたとの報告もあります。なるべく早く病気に気づき、的確な検査と治療を行うことで、つらい症状が大幅に改善できる可能性もあるのです。
「もしかして特発性正常圧水頭症?」と思ったら…
特発性正常圧水頭症の症状は、加齢による変化と似ているものが多いため、気づいても「年のせいだから仕方がない」と見逃されることが少なくありません。また、物忘れはアルツハイマー型認知症などでもよくみられるため、「認知症だからもう改善しないのだ」と思い込み、治療をあきらめてしまうケースも見受けられます。
高齢の患者さんの場合、ご家族の気づきが病気の発見につながることが多いので、チェックリストを確認し、複数のチェックが入る場合はかかりつけの医師あるいは専門医(脳神経外科、神経内科、認知症疾患医療センター)を受診しましょう。また既に受診されている方は、専門医のセカンドオピニオンを得ることも良いと思います。
特発性正常圧水頭症は、正しい治療で改善が期待できる病気です。歩行障害、認知症、尿失禁などの症状が改善することで、患者さんご自身の日常生活が楽になるのはもちろん、ご家族などの介護の負担軽減にもつながります。
鮫島 直之 国家公務員共済組合連合会 東京共済病院 脳神経外科部長
山梨大学医学部卒業。正常圧水頭症センター副部長兼任で2018年より現職。特発性正常圧水頭症では主導的な立場で診療・研究に取り組み、全国より多くの医師の学び舎となっている。特発性正常圧水頭症の症状の一つである歩行障害に着目し、転倒予防を呼びかけるなどその活動範囲は広い。
日本脳神経外科学会専門医・評議員、日本脳卒中学会専門医、日本正常圧水頭症学会理事、日本転倒予防学会理事
さらに詳しい情報は、特発性正常圧水頭症の専門サイト「iNPH.jp」をぜひご覧ください。または、高齢者の水頭症コールセンター(平日8:00~20:00)フリーダイヤル0120-279-465にお電話ください。
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