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老いをどこで 第3部

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[老いをどこで]支える「多様化する担い手」(下)特養にロボ 職員30人分

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東京・大田区の施設 70種類を試用

[老いをどこで]支える「多様化する担い手」(下)特養にロボ 職員30人分

モニターが並ぶ「コックピット」でロボットの活用について話し合う徳山さん(左)と谷口さん(東京都大田区の「フロース東糀谷」で)

 介護事業者もエンジニアを雇い、ロボットと人間が共に働くのが当たり前の時代が訪れるかもしれない。そんな近未来を感じさせる介護施設がある。

 「この作業は将来的にAI(人工知能)で自動化できそう」「さらに効率化できますね」

 東京都大田区の特別養護老人ホーム「フロース東 糀谷こうじや 」。リビングの一角、複数のモニターが並ぶ様子から、職員が「コックピット」(操縦席)と呼ぶスペースで、介護職員とエンジニアが導入中のロボットについて話し合っていた。

 転びそうな人を見つけるシステム、腹部に取り付けて排尿が近いことを知らせる機器、マットレスの下に敷いて睡眠状況や呼吸、心拍数を測定できるセンサー……。施設内で働く複数のロボットがモニター上にデータを表示し、コックピットにいながら入居者の様子が把握できる。

 異変があれば各職員が装着したヘッドセットに通知音が鳴り、持ち歩いている端末で様子を確認できる。これによって、夜間は居室の巡回にかける時間が半分以下になった。電動立ち乗り式二輪車を利用することで、職員が歩く距離も半減した。

  ■エンジニア雇用

 経営する社会福祉法人「善光会」は、「非効率な介護業界に一石を投じたい」と、投資会社のトップが寄付を元に設立した異色の組織だ。最高執行責任者(COO)の宮本隆史さん(33)は、「人手も財源も不足が深刻化する中で、どう良いサービスを提供するか、モデルを作りたい」とロボット活用の狙いを話す。

 2009年からロボットを導入し、13年には介護ロボットの研究室を設立。約10人のエンジニアを雇用し、自前での開発も手がける。メーカーの実証実験に協力して導入費を抑え、簡単な会話ができる人型ロボットや歩行を支援するロボットスーツなど、試してきたロボットは約70種にのぼる。

 介護ロボットの活用などで、同施設では介護、看護職員1人あたりが対応する入居者の数は15年の1.86人から、現在は2.68人にまで上昇した。全国平均は2人程度。入居者180人の同施設でみると、約30人の職員を減らせた計算になる。

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電動立ち乗り式二輪車を乗りこなす谷口さん

  ■改善点を議論

 しかし、全国的にはロボット活用に消極的な事業者は多い。介護ロボットの普及に取り組む「テクノエイド協会」の五島清国・企画部長(50)は「どういう人にどのタイミングで使用するか、使いこなすのが難しい。日常の仕事に追われ、『手でやった方が早い』と諦めてしまいがち。心理的な抵抗感もある」と説明する。

 善光会でも、活用を始めた当初は、「介護は人の手でやらないと」と抵抗感を持つ職員が多かった。エンジニアとして10年から同会で働く徳山創室長(38)は、「理路整然とメカニズムを説明してもみんな『ぽかーん』という感じ。飲みに行って関係を作り、『これを使ってみてほしい』とお願いしていた」と振り返る。4、5年前までは、高齢者が起き上がってもセンサーが反応しない、大きすぎて角を曲がれないなど、使えない製品もあったという。

 今は2週間に1回、介護職員とエンジニアが会議を開き、新たなロボットの導入や改善点などを議論。活用に前向きな職員が働くフロアで先行導入し、全体に広げる方法を取ることで「保守派」は減少し、職員から「こういう機器を試してみたい」と盛んに意見が出るようになった。

 入居者の抵抗感は、職員が想定するほどはないというのが実感だそうだ。例えばコミュニケーションロボット。「子どもだましのようで嫌」と気にする職員もいたが、入居者は「こんなに小さいのに何でも歌えるのね」と、かわいがっている。

 「職員は多い方がもちろん楽。けれど、そうは言っていられない時代が来ますから」と、介護職員の谷口尚洋さん(28)は力強く語る。介護ロボットが人手不足解消の切り札になるには、未来を見据えた介護現場の努力が求められそうだ。

ニーズに合致しない商品も

 人手不足対策として期待される介護ロボットだが、普及には課題も多い。

 国は、見守りセンサーや排せつ支援など介護ロボットの重点分野を2012年に定め、13年度から開発費の補助を開始。16年度には52億円を投じ、介護ロボット購入代金の全額を補助する大盤振る舞いを実施し、約5000施設から応募が殺到した。しかし、「使いこなせず、倉庫に眠っている物は少なくない」(開発関係者)のが現状だ。

 矢野経済研究所によると、介護ロボットの市場規模は、18年度見込みで約19億円。「20年までに500億円」という国の目標には遠く及ばない。

 今年度から、自治体が導入費の半額を補助する制度について上限を10万円から30万円にアップ。開発先行で介護現場の声が反映されない商品が散見された反省をふまえ、開発のアイデア段階でメーカーと介護事業者をマッチングする事業も拡充した。

 テクノエイド協会によると、介護ロボットは、1台20万~100万円が中心だが、値下げの動きもある。それでも、「装着に時間がかかり使いにくい」「高額すぎる」などの理由で普及していない商品は多い。五島企画部長は、「現場のニーズに応えきれておらず、メーカー側の努力が必要」と指摘している。(この連載は、社会保障部・野口博文、田中ひろみが担当しました)

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