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老いをどこで 第3部

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[老いをどこで]支える「多様化する担い手」(上)シニア介護職 光る人生経験

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懐メロ、昔の話で寄り添う

[老いをどこで]支える「多様化する担い手」(上)シニア介護職 光る人生経験

デイサービスの利用者に体操を指導する加茂さん。積極的なコミュニケーションで利用者から信頼を得ている(埼玉県坂戸市で)

 人手不足が深刻な介護現場で、高齢者や外国人が活躍する姿が目立っている。加えて、ロボットの活用で人手不足を補おうという動きも広がる。連載「老いをどこで」第3部は「支える」がテーマ。3回にわたって、変わりゆく介護現場の「担い手」の現状を報告する。

 「歯磨きに行きましょう。ご案内します」――。埼玉県坂戸市の「楽楽デイサービスセンター」に、介護職員の加茂壮二さん(74)の丁寧で大きな声が響いた。このデイサービスでは最高齢の職員だ。輸入ワインの販売会社などで営業職として働き、退職後、65歳で介護の世界に飛び込んだ。

 きっかけは、今は亡き妻の一言だった。

 退職後、犬の散歩や図書館通いをしながら、生きがいを見いだせない日々を送っていた。ある日、廃品回収車が自宅近くを通ると、妻が「不用になった亭主も引き取ってもらえないかしら」とつぶやいた。

 「このままじゃまずい」と焦りが募った時、介護の仕事を始めた同世代の投書を新聞で読んだ。「笑顔ひとつでできますよ」とあった。「これだ」と思い、2010年にヘルパーの資格を取り、有料老人ホームで働き始めた。

 「笑顔だけでできる仕事」ではなかった。勤務初日に顔をふいてあげた入居者がその夜、亡くなった。「介護の現実を思い知った」

 食事介助では、スプーンで入居者の口元に食事を運び続けた。のみ込んだことを確認していなかったため、ほっぺたがどんどん膨らみ、慌てた看護師に止められた。入浴後の女性の髪にドライヤーをかけたら、髪を焦がしてしまった。「失敗から学んだね」と振り返る。

 仕事には慣れたが、11年に退職を余儀なくされた。自身に前立腺がんが見つかり、手術を受けたためだ。

 体調が回復してから、別の介護事業所で仕事を再開。15年には介護福祉士の資格を取得した。今年6月から今の職場で働く。

 施設管理者の鈴木リエさん(44)は「高齢で採用にちゅうちょしたが、とても元気。レクリエーションでも活躍してくれる」と働きぶりを評価する。

 営業マン時代は全国を歩いたので、各地の名物や名所に詳しい。民謡や懐メロも得意で、高齢者の出身地の民謡を歌うと、「久しぶりに聞いた」と涙を流して喜んでくれるという。

 今も服薬や化学療法が欠かせない体だ。それでも加茂さんは「介護はこれまでの経験が生かせる仕事。若い職員にはない強みを生かし、お年寄りが小さな喜びを積み重ねていけるように力を尽くしたい」と話す。

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余暇の時間で、入居者には懐かしい生活用具などの写真を示しながら、昔の暮らしを語り合う加藤さん。「一緒に楽しんでいます」と話す(東京都荒川区で)

 介護現場で働く高齢者は増え、今では欠かせない戦力となっている。介護労働安定センター(東京)の調査によると、施設の介護職員のうち60歳以上の割合は、08年度は8.0%だったが、17年度は15.9%と倍増している。

 首都圏などでデイサービスなどを運営する「ソラスト」(東京)でも、約3000人いる介護職員の3人に1人は60歳以上のシニア世代。同社が運営する「グループホーム東尾久あやめ」(東京都荒川区)の介護職員の加藤悦子さん(72)はその一人だ。

 ずっと事務の仕事を続けてきたが、60歳を目前にした頃、へルパーの資格を取得。「せっかくなら資格を生かそう」と転職した。働きながら介護福祉士とケアマネジャーの資格も取った。

 現在、若手と一緒に夜勤を月に4回こなすが、お年寄りをベッドから車イスに移す介助などは、無理をしないように心がける。担当する高齢者の平均年齢は83歳。フロア長の高橋実さん(34)は「入居者と年齢が近いので、戦後の話など、私たちには想像もつかない体験についても話ができる。かなわないです」と言う。

 加藤さんは「お世話をするだけでなく、教わることも多い。老いに一生懸命寄り添って、ともに人生を過ごしていきたい」と意欲を見せている。

2025年度 推計で34万人不足

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 介護現場は深刻な人手不足が続く。今年7月の有効求人倍率は、全産業の平均が1.42倍だったのに対し、介護分野は3.93倍だった。

 将来の介護職員数を各都道府県が推計したところ、2025年度には計約245万人が必要になるとされたが、実際に確保できそうなのは計約211万人。約34万人の介護職員が不足する見通しだという。

 人材確保のため厚生労働省は、〈1〉介護の仕事を経験したことのない中高年などを対象に、介護の基礎知識を伝える入門的研修の実施〈2〉外国人の受け入れ環境の整備〈3〉介護ロボットの普及による職員負担の軽減――などに取り組む。

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