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がん患者の口内炎対策…粘膜保護剤で痛み緩和

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がん患者の口内炎対策…粘膜保護剤で痛み緩和

 舌がんが肺などに転移した東京都内の男性(68)は、昨年7月に抗がん剤治療を始めたところ、副作用による口内炎の腫れや痛みで食事が取れず、約60キロ・グラムあった体重は半年余りで18キロ・グラムも減った。今年5月に発売された 口腔こうくう 粘膜保護剤を使い始め、食べる喜びを取り戻した。

  抗がん剤、食に影響

 抗がん剤は、活発に分裂する細胞を攻撃するため、増殖の盛んな口の粘膜細胞で障害が起きやすい。免疫力が落ちる副作用もある。口内炎で粘膜の一部がはがれて潰瘍ができ、激しい痛みに襲われたり、傷口から感染した細菌が全身に広がり、痛みや発熱を引き起こしたりする。

 口内炎の発症率は、通常の抗がん剤で3~4割、がんを狙い撃ちする分子標的薬では7~8割。薬の治療と口の周辺の放射線治療を合わせて行うと、ほぼ100%になる。発症者の半数は食事が困難になるとされる。食べる量が減ると、衰弱や栄養状態の悪化につながる。

 国立がん研究センター中央病院(東京都)歯科医長の上野尚雄さんは「口内炎の悪化の程度によっては、がん治療を中断せざるを得ないケースもある。たかが口内炎、ではすまない」と指摘する。

 男性の口内炎は数個だったが、舌、頬の粘膜、唇など場所を変え、抗がん剤治療中に何度も現れた。入院していた同病院の歯科を受診。当初、食前に麻酔薬入りのうがいをし、感覚をまひさせる方法を試みたが、痛みは完全には消えなかった。味も分からず、食べられない状態が続いた。

 この後に使った口腔粘膜保護剤の「エピシル口腔用液」は、成分が唾液と反応して接着性がある薄い膜を作る。口内炎の傷口を保護することができ、口を動かしたり食べ物が触れたりした時の痛みを和らげる。1回の使用で効果は約8時間続くという。味覚に影響が出ないのも大きな特徴だ。

 「粘膜保護剤を口内炎ができた所に数滴垂らし、舌で広げて数分待つと、食べる時の痛さがウソのように消えた」。効果の大きさに男性は驚いた。

 この粘膜保護剤は薬効成分を含まないため、医療機器の扱いだ。主成分は食品添加物として使われているため、用量・用法を守っていれば、健康上の悪影響はない。すでに10年近い使用実績がある欧米では、口内炎の発症期間が短いというデータもある。

  感染症の予防重要

 口内炎治療の基本は、症状を悪化させないことだ。上野さんによると、感染症を防ぐには、うがいや歯磨きをして口の中を清潔に保つ必要がある。症状に応じて、痛みを和らげる鎮痛剤や医療用麻薬などの使用を検討。感染症がひどい時は抗菌薬なども使う。

 新しい粘膜保護剤は、がんの主治医と連携して口腔管理を行う歯科でのみ使うことができる。がん専門病院などでは抗がん剤治療を始める前に、歯科医が感染予防のために口の掃除をしたり、緩和処置の内容などを説明したりしている。

 ただ、がん治療で起こる口内炎には、いまだ根本的な治療薬や予防薬がない。上野さんは「副作用をゼロにできなくても、つらい症状を和らげ、重症化を抑えるために、歯科を活用してほしい」と話している。

 (山田聡)

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