共に働く
医療・健康・介護のコラム
第3部[変わる社会](3)両立へ 職場の改善急ぐ
偏る負担 企業にもマイナス
〈子どもの体調が悪くて、明日出勤できるかわかりません〉。兵庫県内にある大型商業施設の店舗で働いていた女性従業員(33)に、同僚からLINE(ライン)のメッセージが届いた。「またか……」。しばらくして店から代役を頼む電話が鳴り、やむなく休日出勤を引き受けた。
同僚は子どもを保育所に預けて勤めていたが、病気の際などは夫や実家を頼れず、急な休みや早退を重ねた。大抵は、子どものいない自分がフォローすることに。「私にも休みに友達と会う約束や済ませたい家事がある」。大変さは理解したいと思うが、月に何度も休みが潰れると、やりきれなさが募った。
総務省の2017年統計では、共働き世帯は1188万世帯で専業主婦のいる世帯の1・9倍に上った。時短勤務や看護休暇など制度面で両立支援が進む一方、一部の人に負担が偏り、ひずみが生じる職場も少なくない。
大阪府内の物流会社で人事を担当する男性(41)は「子育て中の女性を『人員1ではなく0・5で換算してほしい』と言う管理職もいる」と漏らす。社員の半数は女性で、幼い子がいる母親も多い。そうした社員が定時に退社後、業務を引き継ぐのは若手や独身社員だ。「残業を前提にした働き方では、会社のためにも社員のためにもならない」
復帰後も意欲
共働き世帯が増えるにつれ、子育て中の女性が職場で十分に活躍できなくなるケースも顕在化し、「マミートラック」などの言葉も生まれた。だが、出産してもやりがいを持って働きたいという人は多い。
9月上旬、東京タワー近くのビルの一室であった「育休プチMBA」の勉強会には、育休中の母親たち約30人が集まった。活動は14年7月に始まり、月1、2回の勉強会はすぐに定員が埋まるほどの人気で、これまでに延べ2000人以上が受講。この日は「人を動かすコミュニケーション」をテーマに参加者が体験談を交えて語り合った。
12月に復職予定の女性(37)は「残業は難しいけれど、しっかり仕事をしたいし、周りに迷惑をかけたくない。育休中に能力を磨いておきたい」と話した。
勉強会を監修するワークシフト研究所所長で、静岡県立大講師の国保祥子さん(経営学)は「能力や熱意はあるのに、復帰後に重要な仕事を任されずに意欲を失ったり、周囲が長時間働く姿に将来像を持てなかったりする女性は多い」と指摘。「問題の根本は両立しにくい職場環境と『育児を担うのは女性』という性別役割分業の意識。労働力人口が減る中、女性の活躍が企業の競争力強化につながる」とする。
意識改革推進
長時間労働の是正などを掲げる国の働き方改革を背景に、企業も両立支援に向けた対応を急ぐ。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(東京)が従業員301人以上の企業289社の回答を分析したところ、柔軟な働き方のために導入している制度は「半日単位の休暇」が最多で、「始業または終業時間の繰り上げ・繰り下げ」「フレックスタイム制」が続いた。
ダイキン工業(大阪)は16年、育休から早期復帰してもらうため、書類作成など自宅でできる業務について、1歳未満の子を持つ社員は週4日まで在宅勤務できる制度を設けた。意識改革にも取り組み、男性管理職に「子どもがいるから出張させられない」といった先入観で判断しないよう徹底。女性社員には長期的なキャリアの展望を持つことやパートナーと家事、育児を共有する重要性を説く。
積水ハウス(大阪)は今年9月、男性社員の「1か月以上の育休完全取得」を制度化。最初の1か月分は有給扱いとし、長期の取得を促す。子育てを主体的に担った経験が、家づくりに関する提案力向上や業務効率化にもつながることを期待する。
執行役員の伊藤みどりさんは「制約のある社員の能力を最大限引き出す取り組みは今後、障害のある人や外国人など多様な人材に力を発揮してもらう際に役立つ」と強調。「子どものいない社員も、いずれ親の介護などにより職場で支えられる立場になるかもしれない。『お互い様』という社内風土をつくりたい」としている。
マミートラック 育児中の女性が負担の軽い補助的な仕事を担い、陸上のトラックを周回するように、昇進から遠のく「母親向けコース」に固定化される状況を指す。
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