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里親の現状と課題(下)支援の役割担う乳児院

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根気よく勧誘や研修

里親の現状と課題(下)支援の役割担う乳児院

 虐待などで保護された子どもを自宅で預かる里親を増やそうと、国は、里親の募集から支援まで一貫して行うフォスタリング機関の整備を各地で進めている。保護された乳幼児を集団で養育する乳児院もその一つ。先進例をたずねた。

 「小さな子どもを短期間、預かってくれる家庭を募集しています」。長野県東御市内のコンビニで8月、増田浩司さん(47)が汗をぬぐいながらレジの店員に声をかけた。「チラシを置かせてもらえませんか」

 増田さんは、隣接する上田市の「うえだみなみ乳児院」の職員だ。0~3歳の9人の子どもが暮らす。増田さんの仕事は、子どもたちの里親を探すことだ。

 この日、増田さんは東御市内のコンビニや薬局、飲食店など計13店を訪れ、約300枚のチラシを配った。チラシを見て電話してきた人には、意思を確認しながら、里親の説明会や家庭訪問、研修などを段階的に行い、約1年かけ、児童相談所に登録するまで、乳児院が支援する。

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コンビニの店頭で里親募集のチラシを見せる、うえだみなみ乳児院の増田浩司さん(右、長野県東御市で)

 「子どもには家庭的な環境を」という国の方針を受け、同院が里親の募集を始めたのは昨年6月。入所児童数が増え、日中3人、夜間1人の職員体制では、十分な養育が難しくなってきたことも後押しした。

 「普通の家庭なら毎日、散歩に連れ出せるのに、ここでは週2~3回がやっと。ミルクもおなかがすいた時ではなく、時間が重ならないよう順番にあげている」と、保育士、田中悠さん(26)は話す。夜間は寂しさからか、何度も目を覚ます子どもたちを、当直の職員があやして回る。

 丸山充院長は「施設では一人の子をつきっきりで世話できないが、里親なら一人の子に向き合えて子どもの情緒も安定する。里親に子どもを預け、職員が外から支援をした方が子どものためにはいい」と話す。

 同院は昨年度、里親支援の専門チームを発足。現在は4人の職員が、勧誘や研修、子どもを預けた後の相談や指導、子どもの実の親への支援を行う。

 ただ、里親探しには時間も労力もかかる。今年8月までの約1年間で、同院が配ったチラシは計約2万6000枚。約90世帯から問い合わせがあったが、責任の重さからか、里親登録したのはまだ1世帯だ。

 まずは制度への理解を広めることで、里親を増やそうという取り組みもある。

 東京都杉並区の聖友乳児院は8月下旬、地元のカフェで、コーヒーを飲みながら里親の話を聞く会を主催した。参加したのは、近隣に住む男女約15人。

 夫と小学生の実子がおり、保育園児の里子を育てる女性(53)が「子ども同士で遊んだり、家族4人で出かけたり、いい経験をさせてもらっている」と話すと、参加者は熱心に耳を傾けた。自宅で学習塾を開く女性(60)は「里親も普通の子育て家庭と変わらないと知り、印象が変わった」と話した。

 同院職員の山田愛弓さん(50)は「里親になってほしいと頼まれると、みんな身構える。まずは多くの人に実態を知ってもらい、その中から将来、里親になってくれる人が現れればいい」と話している。

  <フォスタリング機関>  里親の募集、研修、相談などの支援を一貫して行う機関。都道府県などの自治体や、乳児院やNPO法人などの民間が運営する。国は、2020年度に、全都道府県に普及させることを目指している。

里親委託率低い日本

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 日本では、親元で暮らせない子どもの多くが児童養護施設や乳児院で育っている。

 里親家庭で育つ子どもの割合(里親委託率)は、18.3%(2016年度末)。欧米諸国に比べて低いのが現状だ。

 だが、子どもの成長には、特定の大人と安定した関係を築けるよう、家庭に近い環境での養育が望ましいという。

 このため、16年に成立した改正児童福祉法では、子どもを家庭的な環境で育むことを優先するという原則が明記された。これを受けて、厚生労働省は、里親委託率を年齢に応じて50%~75%以上に引き上げるなど目標を打ち出し、自治体に計画の作成を促している。

英国では手厚い支援策

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 英国の子ども支援の慈善団体で、100年以上の歴史を持つ「バーナードス」のブレンダ・ファレル家庭養育事業部長=写真=に、英国の里親支援について聞いた。

 英国で保護が必要な子どもの約7割は里親家庭で暮らしている。昔は大規模な施設が多数あった。しかし、1960年代以降、施設より家庭の方が子どもの発達に良い影響を与えることが研究で明らかになり、施設を減らしていった。

 私たちは、自治体と連携しながら、里親候補者の募集と採用、研修などを行っている。里親を増やすには委託後の支援も重要だ。里親には経験豊富なソーシャルワーカーが担当につく。手厚い養育手当や無料の研修があり、24時間いつでも支援を受けられる。一時的に里子を預かるほか、里親同士の交流会などもある。

 英国でも里親を増やすには時間がかかった。日本も一歩ずつ進むことが重要だ。

 この連載は、社会保障部の樋口郁子、粂文野が担当しました。

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