共に働く
医療・健康・介護のコラム
第3部[変わる社会](2)近所に母 頼れる「孫育て」
「近居」を選ぶ人が増えている
共働き世帯では、祖父母が孫の世話を引き受けることも少なくない。
兵庫県西宮市の女性(66)はこの10年、孫中心の生活を送る。共働きの長男夫婦と小5、小3、3歳の孫は車で15分のところに暮らす。週2日は自宅で長男一家の夕食も用意し、週1日は塾通いする孫らのために手作りの弁当を長男宅に届ける。
この夏は横浜市に住む長女が第2子出産で上の子を連れて里帰りし、新生児の世話をしながら、大人5人、孫4人の食事を作った。
孫の急病などで、友人とのランチや趣味の予定を断ることもある。「孫がかわいいから苦にならない。友人には『ドタキャン前提ね』と伝えています」と笑う。
旭化成ホームズ共働き家族研究所(東京)の2016年の調査では、フルタイム共働き家族の65%が親から子育てサポートを受けていると回答した。背景には、保育所の整備が追いついていないことや、病児保育など子どもが病気の時に頼る先が少ないことなどがある。
支援を受けやすいように、親世帯と子ども世帯が近くに暮らす「近居」を選ぶ人も増えている。特に頼りになるのが「母親」だ。国立社会保障・人口問題研究所の13年の調査では、親と別居している既婚女性のうち、夫婦の母親のうち近い方が「60分以内」の場所に住む人は72%で、20年間で12ポイント上昇した。国や自治体も三世代同居・近居を推進しており、自宅の改築や引っ越しの費用などを助成する。
企業も支援
最近は定年の引き上げや再雇用で、現役で働く祖父母も多い。兵庫県尼崎市の元保育士の女性(62)は子育て支援に関わる仕事をしながら、神戸市に住む長女夫婦が共に残業や休日出勤の時に2歳の孫を保育園に迎えに行ったり、預かったりする。営業職の長女は「緊急時に頼れる存在がいるのは心強い」という。
女性自身も働きながら3人の子を育て、実母に度々助けられた。「何があるかわからないから女性も経済的に自立していた方がいい。孫を預かった後は疲れも出るけれど、仕事にやりがいを持って頑張る娘を応援したい」と話す。
孫育てをする従業員向けに支援を始めた企業もある。東邦銀行(福島県)は15年、「イクまご休暇」を創設。未消化の有給休暇を積み立て、最長120日休める。「遠方に住む娘の出産で退職も考えたが、制度に助けられた」などと好評で、延べ28人が利用した。第一生命(東京)は06年から最長9日間休める「孫誕生休暇」を始め、年間約900人が活用する。
自治体も祖父母向けに最近の育児方法などを紹介する「祖父母手帳」を作ったり、孫育て講座を開催したりと、子育て世帯を支援する存在として期待する。
体力に衰え 無理は禁物
一方で、晩婚化により高齢の祖父母が孫の世話に疲れ果てる「孫疲れ」も注目されつつある。第一生命経済研究所の14年の調査では、孫育てについて祖父母の8割が「子育ては親自身で行うべきだ」とした。一方、「孫育ては大変だが、子どものためには引き受けるべきだ」とした人も7割おり、複雑な思いを抱いていることがわかった。
「子や孫にしばられない生き方」(産業編集センター)の著者、河村都さん(71)は、双子を妊娠中の長女夫婦と同居するにあたり「これから孫一色の人生になるのでは」という不安に陥った。世間が当然のように孫育てを押しつけてくることに違和感も感じていた。そこで、「夜8時以降は手伝わない」「食費や日用品の費用は同額ずつ出し合う」などのルールを決めた。
「初孫の時には張り切っていても2人目、3人目と続くと負担が大きくなる。加齢で体力が落ちることも見越し、負担を背負いすぎない態勢作りは重要」と指摘する。
世話を断ると、「冷たい」と思われると心配する人もいるが、「孫を預かるのは命を預かること。無理は禁物」と強調する。「今を楽しく生きる姿、そして少しずつ老いていくことを伝えるのも子や孫にしてあげられることです」
<連載への感想や体験談をお寄せください>
〒530・8551読売新聞大阪本社生活教育部「共に働く」係へ。ファクス(06・6365・7521)、メール(seikatsu@yomiuri.com)でも受け付けます。ツイッターは https://twitter.com/o_yomi_life_edu。
【関連記事】