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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

腸が飛び出た腹壁破裂を出生前のエコー検査で発見 二つの手術室を確保し、帝王切開後すぐに全身麻酔で…

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エコー検査で胎児の異常判明

 胎児の段階で腹壁破裂の診断がついたケースを、私は1997年に初めて経験しました。

 産科の先生から連絡をもらい、産科診察室へ駆けつけると、母親に超音波(エコー)検査を行っている真っ最中でした。時間をかけ、産科の先生が胎児の腹部を映し出すと、確かに腸が飛び出ています。臍帯はきちんとした構造をしているので、臍帯ヘルニアではなく、腹壁破裂です。専門的なことを言うと、腹壁破裂の方が臍帯ヘルニアよりも手術がやさしいので、これには少しほっとしました。

 検査が終わると、私たちは両親に、腹壁破裂とはどういう病気で、出産後にどんな手術をすればいいのかを説明し、「助かる可能性は100%に近い」と断言しました。

人工布でおなかの穴を塞ぎ

 小児外科と産科で合同会議を開き、出産日を決めました。分娩方法は、帝王切開になります。赤ちゃんの腸が飛び出た状態で産道を通過すると、腸が引きちぎれる危険があるからです。

 帝王切開の日に合わせ、手術室を二つ確保しました。まず、一つめの手術室に産科医と小児外科医が全員集合し、妊婦に硬膜外麻酔をかけて帝王切開に移ります。腹壁破裂の赤ちゃんは、ほとんどの場合、ほかの奇形はなく、元気に生まれてきます。

 私たちは、滅菌された布で赤ちゃんを受け取りました。誕生を確認し、父親と看護師が病院の事務局へ走ります。出生届の提出も命名もまだ行われていませんが、病院のIDカードを作ってしまいました。苗字に続け、赤ちゃんの名前を「ベビー」と印字しました。

 さて、二つめの手術室は、すでに蒸し暑いくらいに室温が高められています。この部屋に赤ちゃんを運び込み、麻酔科医が全身麻酔をかけます。赤ちゃんは低体温になっていませんし、感染している可能性もゼロです。

 手術方式は、最新のものを採用しました。腸を無理におなかの中に押し込むのではなく、シリコン製の人工布を穴の周囲に縫い付け、腸が飛び出たまま、布で覆ってしまうのです。おなかの上には、腸を覆った人工布が、北海道で見るサイロのような形で立っています。赤ちゃんは、この状態で新生児室に帰りました。手術時間は、わずか30分程度です。

胎児への診断が、より良い治療につながることも

 手術後の腸は余分な水分が抜けて縮むため、自然と穴からおなかの中に入っていきます。1週間後には、すべての腸が収まりました。そこで、私たちは2度目の手術を行い、開いている穴を縫い合わせて塞ぎました。この手術も30分くらいで終わりました。

 手術を2度に分けて行ったのは、1度の手術で腸を無理やり押し込むと、肺を圧迫して呼吸困難になり、人工呼吸器が必要になるからです。この赤ちゃんは、そうしたストレスのかかる治療を受けなくて済んだのです。

 腹壁異常の新生児が、こうした安全で負担の少ない外科治療を受けられるようになったのは、出生前に行われる胎児エコー検査の明らかな功績と言えるでしょう。(松永正訓 小児外科医)

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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