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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓

医療・健康・介護のコラム

腸が飛び出た腹壁破裂を出生前のエコー検査で発見 二つの手術室を確保し、帝王切開後すぐに全身麻酔で…

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 赤ちゃんの腹壁異常には、 臍帯(さいたい) ヘルニアと腹壁破裂という二つの疾患が含まれます。前者は臍帯(へその緒)から腸が飛び出し、後者はへその脇の穴から腸が飛び出すという違いがあります。臍帯ヘルニアでは、腸だけでなく肝臓も飛び出ていることがあります。どちらにしても、こういった赤ちゃんが町の産院で生まれると、大学病院へ搬送するまでの間に、赤ちゃんが低体温になったり、腸に感染が起きたりする危険があります。

生まれてからの搬送では低体温の危険も

 大学病院に到着した時点で、体温が36度を下回っていることも珍しくありません。低体温になると、血液は酸性に傾きます。酸性になると、赤ちゃんの呼吸や血液の循環は悪化していきます。そうすると、さらに血液が酸性になっていきます。赤ちゃんの低体温は、命に関わる重大なリスクなのです。この状態に感染が加わると、一気に全身状態が悪くなり、生命の危機に (ひん) することになります。

【名畑文巨のまなざし】
ポジティブエナジーズ(その10) 世界をめぐり撮影したダウン症の子どもたちは、みなポジティブなエネルギーにあふれていました。英国の5歳のセブくん(右)はダウン症。4歳の弟と一緒に撮りました。撮影では、おもちゃであやして笑顔を引き出していきますが、お兄ちゃんは反応がとても早くて、瞬時に笑顔でツッコミを入れてくれます。弟くんもそんな兄に同調しながら大爆笑。とてもいいコンビです。関西人の私は、そのノリの良さにとても親近感を感じました。英国バース市にて

 従って、腹壁異常の赤ちゃんが搬送されてくると決まった時は、私たちは処置室の中を暖房で暑苦しいくらいに暖めます。シンクに熱いお湯を張って、その中に生理食塩水と消毒液のボトルを入れて、中味を温めます。

 救急車のサイレンが聞こえてきたら、 沐浴(もくよく) 用の (たらい) の中に生理食塩水と消毒液を入れて、消毒風呂を作ります。

消毒風呂で腸を洗い、体を温めてから手術

 赤ちゃんが到着すると、小児外科医は、手術をする時と同じように滅菌手術着を身にまとい、滅菌手袋を着用します。飛び出ている腸に素手で触れて、感染を引き起こさないようにするためです。

 そして、赤ちゃんを抱っこして消毒風呂に浸します。時々、体温を測って、直腸の温度が37.5度くらいまで上昇するのを待ちます。飛び出ている腸を消毒液で洗いながら、体全体を温めていくのです。

 こうした処置で全身状態が良好になれば、手術室に電話を入れて緊急手術に臨み、飛び出ている腸をおなかの中に収めます。この間、赤ちゃんは生命を脅かされ続けることになります。

 しかし、出生前に診断が付けられていれば、こういうプロセスはすべて不要になります。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは 歴史は必ず進歩する!

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは 写真家名畑文巨の子ども写真の世界

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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