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コラム

『家族のためのユマニチュード』 イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ、本田美和子著

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家族向けにケア技術を紹介

 認知症ケアの技法として、注目が高まっている「ユマニチュード」。フランスの体育学の教師たちが開発し、40年も実践を重ねてきたというが、日本では、ここ数年で広がりを見せている。

 この技法について、2人の開発者と国立病院機構東京医療センター総合内科医長が、初めて認知症の人を介護する家族に向けてつづったのが本書だ。開発の基礎となった考え方を解説し、一つひとつの技術を日々の介護で実践できるよう、イラストを多用して分かりやすく紹介している。

 認知症の人とコミュニケーションを取るうえで、「見る」「話す」「触れる」「立つ」を「4つの柱」と位置づける。「寝たきりの人が、ケアを受けたら立ち上がれるようになった」など、高齢者の身体機能のめざましい回復が話題になっているが、本来はトレーニングではなくコミュニケーションの技法なのだ。

認知症の人とコミュニケーション

 開発者の一人、イヴ・ジネスト氏が日本の介護施設で職員を指導する場面を映像で見たことがある。彼に促された職員が、重度の認知症で意思の疎通も困難だという女性の正面に回って自分の顔を近づけ、話しかける。すると女性の視線が動き、職員の顔をじっと見つめた。さらに繰り返し語りかけると、女性が「はい」と返事をしたのだ。全く無反応でうつろだった目が、相手の顔を追って動き出し、呼びかけに答える様子には驚かされた。

 キスやハグであいさつする欧米ならいざ知らず、日本人には、相手の体に触れながら顔を寄せて見つめ合うやり方は、なかなかハードルが高いのではないか。戦前世代ならなおのこと……と思っていたが、映像の認知症の女性はまっすぐに相手の目を見据え、ひるんだり戸惑ったりする様子はなかった。むしろ若い職員の方が、気恥ずかしさで落ち着かないように見えた。

社会規範を失った後に残るもの

 その理由を本書では、それぞれの国の文化は人々が後天的に身に付けた「社会規範」であり、認知症になるとそれが失われるため、と説明している。そして、後に残るのは、「人が生まれ持った人間としての特性」だと。「ユマニチュード」は、その最後に残る「人間の特性」に合わせて作られているというのだ。

 文化の衣を脱いだ人に対し、「あなたは大切な存在なのですよ」と相手に分かる形で伝えることで、よい関係を築く。そのうえで、その人がもともと持っている能力を引き出す。そのためには「愛情を表現することをためらわない」ようにと、本書は説いている。読み進めるほどに、「これは家族こそが学び、実践すべきケアの方法ではないか」と思わされた。

 家族だからこそ、改まって言葉や行動で愛情を表すのは照れくさいこともあるだろう。だがそこは、「そういう技法であり、これは技術なのだ」という言い訳を心でつぶやいて、思い切ってやるのがおすすめ。人間が生まれながらに優しい触れ合いを必要としているのなら、介護をする側にとっても、それが癒やしになるはずだ。誠文堂新光社、1600円(税別)。(飯田祐子 ヨミドクター副編集リーダー)

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