安心の設計
介護・シニア
シニアの再就職(上)新しい仕事 体験で納得
事務職希望とのミスマッチ防ぐ
65歳以上で働く人は807万人(2017年)と10年前の1.5倍に増えている。定年などを機に就職活動をする人も多いが、シニア世代の再就職には、「新しい仕事や職場環境にうまく対応できるかどうか」という不安もつきまとう。こうした“壁”を取り除くための取り組みを、2回にわたってリポートする。
「自分にできるのか心配もあった。仕事の進め方を教えてもらうなど、事前に体験できたのがよかった」。金網製造販売会社の石川金網(東京都荒川区)で製品の検査・包装などを担当する女性(66)は、2年ほど前の、同社への職場訪問の思い出を振り返る。
同社への就職は、東京しごとセンターの「しごとチャレンジ65」という事業に参加したのが決め手になった。65歳以上の人を雇いたい企業を求職者が訪れ、見学や体験を通じて求人票ではわからない仕事の詳細や職場の雰囲気を知り、応募するかどうかを決める。いわば「シニア版インターンシップ(就業体験)」の取り組みだ。
この女性は、事務職の経験が25年以上と長く、新しい仕事への不安を感じていたが、「職場の雰囲気もわかって安心した」と話す。翌月から勤め始め、体調も考慮しながら、現在は週4日働いている。
2013年4月施行の改正高年齢者雇用安定法は、再雇用なども含め、65歳まで働ける制度を設けることを企業に義務付けている。現状は大半の企業が65歳を雇用の区切りにしているほか、家庭の事情などでそれ以前に退職する人もいることから、多くのシニアが再就職のための活動を経験することになる。
しかし、大きな課題は、希望する職種と実際の求人とのミスマッチだ。
17年度に新規登録したシニア8504人の37%にあたる3145人が事務職を希望したが、就職者数は668人――。同センターのシニア向け就活セミナーでこうした数字が紹介されると、参加者の表情が曇る。定年などを機に再就職先を探す人は、それまでホワイトカラーで働いてきたケースが多いためだ。
講師は「人手不足で事務職の採用も増えているが、厳しい状況は変わらない。職種を変える選択肢があることも頭の片隅において」と受講者に呼びかけた。
ミスマッチを防ごうと、同センターは3年前、「しごとチャレンジ65」を始めた。担当者が、シニアを雇う意向のある中小企業を開拓し、求職者に職場の見学や仕事の体験をしてもらう。
同センターの高齢就業支援担当・井上博人さんは「体験後に『荷が重い』と断ることもできる。働き始めてすぐに辞めてしまう事態を避けられるのは、お互いにとって良いこと」と話す。18年3月末までの2年半で約300人がこの事業に参加し、約半数が就職に結びついた。今年度は、70歳以上の求職者向け職場見学・体験にも力を入れている。
こうしたシニアに対象を絞った取り組みには、雇う側にもメリットがある。石川金網の石川カオリ専務は、「65歳で採用しても、元気な方なら10年、15年と腰を落ち着けて働き続けてくれる。求人を出しても若い人の応募はなかなか期待できない中、人手不足に陥らずに済んでいるのは、年配の方たちのおかげ」と話す。
<東京しごとセンター> 東京都千代田区にある都の就業支援施設。公益財団法人「東京しごと財団」やハローワークなどが一体的にサービスを提供する。55歳以上向けのシニアコーナーなど年代別の窓口や、女性の再就職支援の窓口がある。都内で仕事を探す人なら誰でも利用できる。
実務経験 派遣会社が提供
シニア世代が就職前に仕事を体験できる取り組みは、ほかにもある。
シニア専門の人材派遣会社「マイスター60」(東京都港区)では昨年4月、オフィスビルなどで電気・空調・給排水などの設備管理を行う仕事を目指す人向けに、独自の職場体験プログラムを始めた。
この仕事を目指すシニアには、これまでは事務系の仕事をしてきたという人も多い。職業訓練校で6か月間学んで知識や技術を身につけたり、必要な資格を取得したりするが、派遣先が実務経験を条件とする場合が多いという。
同社のプログラムは、こうしたシニアに、実際の派遣先で3か月間のトレーニングを積んでもらう内容で、その間の給料は同社が負担する。井口順二・シニアビジネス事業部長は「先輩派遣社員が実務を教え、1か月ごとに場所も変える。ビルにより機器も違うため、いろいろな現場に対応できるようになる」と話す。
このプログラムを終え、現在、7人が派遣先のビルで働いているという。
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