安心の設計
医療・健康・介護のニュース・解説
シニアの再就職(下)未経験への挑戦 講習後押し
最終日には採用面接会
再就職を目指すシニアの間で、新しい仕事に挑戦する際に必要な知識や技術を身につけられる講習プログラムが人気となっている。経験したことのない職種はどうしても応募のハードルが高くなりがちだが、こうした講習があることで、仕事選びの視野も広がる。
「モップは、拭いた上を歩かないように後ろ向きでかけていきます。振り返りながら、よく安全を確認してください」――。講師の助言に従って拭き掃除を練習しているのは、マンション管理員への就職を目指すシニアたち。新しい職種への挑戦をテーマに、東京都の就業支援施設「東京しごとセンター」が開催する就職支援講習の受講生だ。
会場は、同センターが委託したマンション管理会社「長谷工コミュニティ」の都内の研修所。マンションの設備を再現した施設を使い、同社のベテラン講師たちから実務で役立つ技を習う。この日は、約40人がガラス拭き、床掃除などを順番に体験しながら学んだ。「座っていればいい楽な仕事ではないことがよく分かった」と受講生が感想を漏らす。「実際に設備に触れて学んでおけば、働き始めた後も怖くない」(同社の栗原宏・研修センター長)という。
東京しごとセンターの就職支援講習は55歳以上が対象で、ほかにも警備員、コンビニ店員、介護ヘルパー、保育補助員などシニアの就職実績が高い職種で開講されている。一部の教材代を除き無料で受講できるが、修了後にその職種で就職する意思があることが条件。コースごとに定められている講習日程にすべて出席する必要もある。
2年前にマンション管理員コースを受け、現在、都内の大規模マンションで週5日働いている男性(62)は「最初は定年前と同じコンピューター関係の仕事に応募したが、書類選考で落ちた。そんな時、ハローワークでこの講習を知り、管理員の仕事を具体的に考えるようになった」と話す。
未経験の仕事に必要なスキルを身につける講習は、事務系に偏るシニアの希望職種と、求人のミスマッチ解消にもつながる。採用後に、仕事についていけずに辞めてしまうケースも避けられそうだ。
講習の最終日には、多くの企業が参加して採用面接会が開かれる。東京しごとセンターの平野直子さんは「どのコースの受講生も、講習日程を終えると、その業界で働く人の顔になる。企業の採用担当者の評価も高い」と話す。
技能講習と就職支援を組み合わせたプログラムは、これ以外にも厚生労働省の「高齢者スキルアップ・就職促進事業」として、民間事業者などに委託する形で各地で行われている。コースや日程、応募方法は、各都道府県にある同省労働局で確認できる。例えば、神奈川労働局では今月下旬以降、マンション管理員、保育補助員、介護スタッフなどの講習を予定している。
「こだわり過ぎ」就活難航も
東京しごとセンターが55歳以上を対象に毎週開いている「シニアの就活スタートセミナー」で講師を務める中長咲恵さんは「やりたい仕事だけでなく、絶対にやりたくない仕事もよく考えて」と助言する。給料がいいという理由だけで働きたくない仕事なのに就職した人は、すぐに辞めてしまいがちだからだ。
ただ、事務職など一部の職種へのこだわり過ぎも、得策ではなさそうだ。「仕事が合わずにすぐに退職してしまうのも、採用通知をもらえずに離職期間が長くなってしまうのも、経歴として採用担当者にマイナスと見られやすい。就職活動が難航する要因になる場合がある」と指摘する。
人手不足もあり、60歳代前半での事務職への採用も増えているというが、「直前まで同様の仕事をしていたなど、即戦力として働けることが条件」という。
中長さんは「できるだけ長く働き続けたいと思っている人は、60歳代でシニアの就職実績が高い職種に路線変更して経験を積んでおくと、70歳代以降も仕事が見つけやすい」と話している。
(この連載は、社会保障部・滝沢康弘が担当しました)
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。