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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

向精神薬による目の異常「ベンゾジアゼピン眼症」の提唱

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 今回は、これまでもこのコラムで何度も取りあげた「眼瞼(がんけん)けいれん」(詳しくは2016年6月2日~30日 のコラムをご覧ください)について、私たち、井上眼科病院の神経眼科のグループによる最新の研究成果をお伝えします。

 当院で1年間に眼瞼けいれんと診断された初診患者約1100人について、訴える症状や経過を追跡調査した研究で、近く英国の神経眼科雑誌に掲載予定です。

瞼の運動症状や光過敏、精神症状などが混合

 病名の文字面からは、 (まぶた) がピクピクとけいれんするような病を想像するかもしれませんが、それはやや違います。①目を開けたくても容易に開けられない「 開瞼(かいけん) 困難」や、まばたきが増えたりリズムがおかしくなったりする眼瞼の運動症状、②まぶしい(羞明(しゅうめい))、もしくは光過敏、目が痛い、目の周囲のしつこい不快感など感覚症状、③不安や抑うつ、不眠などの精神症状、の三つの要素が様々な度合いで混合する病気で、非常に治りにくいのです。症状は目やその周辺に出ますが、病気の正体は、脳の誤作動です。

 今回の論文で報告したポイントの中から3点を挙げてみます。いずれも薬との関連に注目することでわかった特徴です。

 まず第1は、従来は①の瞼の運動症状が主と思われていましたが、②の羞明や眼痛が前面に出た「感覚過敏タイプ」の患者さんがかなりいることです。しばしばドライアイなどと間違えられ、眼球に対応する所見が乏しいと精神疾患に間違えられやすいことです。

 次に、患者の約3分の1は薬物が原因または誘因になっていることで、特に「感覚過敏タイプ」に多いようです。

 眼瞼けいれんの症状が出る以前から服用していた薬物がわかった患者で分析すると、ベンゾジアゼピン系、またはそれと似た作用を持つ向精神薬がずらりと並びます(図参照)。ちなみに、1位のエチゾラムはベンゾジアゼピンとは少し構造の違うチエノジアゼピンと呼ばれる薬物で、2位のゾルピデムは非ベンゾジアゼピンに分類されますが、ほぼ同じ薬理作用です。

発症前に向精神薬を処方されていた359例について、処方薬を頻度順に7位まで示した。「1―2剤処方」は当該薬のみか、ほかに1剤(計2剤)処方、「全体」は2剤より多く併用していた例も含む。一般に、使用薬物が少ない方が、当該薬が原因で生じた証拠としての価値が高い。(単位:人)

発症前に向精神薬を処方されていた359例について、処方薬を頻度順に7位まで示した。「1―2剤処方」は当該薬のみか、ほかに1剤(計2剤)処方、「全体」は2剤より多く併用していた例も含む。一般に、使用薬物が少ない方が、当該薬が原因で生じた証拠としての価値が高い。(単位:人)

 これらは、睡眠導入や精神安定のためによく使われる薬物で、5年以上飲み続けて発症した場合は、離脱(少しずつ薬の量を減らして、最終的には服用をやめること)に成功しても、症状があまり改善しないことも明らかになりました。ただし、進行にブレーキはかかるので、そういう方でもあきらめるのは早すぎます。

 第3のポイントは、症状の経過に関する発見です。感覚過敏タイプを含め、開瞼困難など運動異常が多少なりとも存在することが眼瞼けいれんの診断条件です。

 ところが、初めはまぶしい、痛い、ぼやける、不快だといった感覚に関する症状が目立ち、運動異常が全く、またはほとんどないケースがあります。ただ、経過を追っているうちに、運動異常も次第に明らかになってくる症例が少なからずあることに気づきました。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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