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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

妊産婦の自殺招く「産後うつ」 防ぐには男性が育休取得を!

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 妊産婦が死亡する原因の約3割が自殺で、最も多かったという調査結果が報道されました。

<妊産婦の死因、3割は自殺…産後うつが影響か>
 2015~16年の2年間に死亡した妊産婦のうち自殺は102人で全体の3割を占め、死因として最多だったとする調査結果を国立成育医療研究センター(東京都)の研究チームが5日発表した。無職世帯や35歳以上の女性が産後に自殺するリスクが高く、産後うつの影響がうかがわれた。妊産婦の自殺に関する全国の実態が分かったのは初めて。
 研究チームは、各自治体に提出された12~60歳の女性の死亡届や出生届、死産届を基に死因を調査した。
 妊娠中から産後1年未満に死亡した妊産婦は357人(死産を含む)。死因を調べたところ、自殺は102人(妊婦3人、産婦99人)で、がん75人(妊婦はゼロ)、心臓病28人(産婦27人、死亡時期不明1人)が続いた。(2018年9月6日 読売新聞朝刊)

認知されていない産後のリスク

妊産婦の自殺招く「産後うつ」 防ぐには男性が育休取得を!

阪急電車のリュックがお気に入りの息子です

 日本の妊娠・出産にかかわる医療は、世界でもトップレベルの安全性を誇り、妊産婦死亡数は少ないと言って差し支えありません。産科医は、人員不足や過重労働が問題になっている状況の中で、母子の命を守るために最大限の努力をしていると思います。そのために、体の病気が原因で亡くなる方が少なく、結果として自殺の割合が多くなったと考えることもできます。

 しかし、妊産婦の自殺を防ぐ対策は、十分に行われていないかもしれません。背景には様々な事情があると思いますが、自殺のほとんどが、妊娠中ではなく産後に起きていることを考えると、「産後うつ」が影響していると推測されます。読売新聞の記事にも、赤ちゃんが生まれた後は幸せな時期と思われがちで、産後うつなどのリスクは十分に認知されていない旨が書かれていました。

 このコラムでも取り上げましたが、産後というのは決してハッピーなだけの時期ではありません。どのような出産でも骨盤底などにダメージを受けますし、女性ホルモンが急に激減するなど内分泌環境が激変します。そのうえ、授乳のために睡眠は細切れになってしまいます。産後の母体に起こっている変化や育児の負担を軽く見ることはできません。

 私が初めて出産した約7年前に比べると、育児の大変さが理解されるようになってきたと感じますが、いまだに「子どもを産んだら母性が湧いて、眠れなくても疲れていても、育児をするだけで幸せなのだ」「それが良き母親だ」などと思っている人は少なくないと思います。そうした見方は、母親を追い詰めます。

一番必要なのは「夫の育児参加」

 産後の母親が自ら命を絶ってしまうケースを減らすには、育児をサポートし、母親の心身の負担を軽くすることが不可欠です。「母子だけで放っておくのはまずい」と認識し、孤立させないよう周囲が関わっていく必要があります。

 静岡県は 「産後ママを知ろう!BOOK」 を作りました(私が監修しました)。一部では滞在型、訪問型の産後ケアサービスも始まっています。しかし、これらのサービスが広がるにはコストや人手などの問題があり、まだ一般的とは言えません。

 そうした状況で、今一番求められる策は、男性が育児休業を取ることではないでしょうか。父親が早い時期から育児や家事に関わって当事者意識を持ち、育児の「苦労と幸せ」を母親と共有できれば、追い詰められる母親は減るはずです。

男の育休取得はステイタス!

 父親が、生まれて間もない赤ちゃんと過ごす時間をたくさん持てば、愛着形成にもつながるし、「男性は外で仕事をし、女性は育児や家事をする」というジェンダーロールの刷り込みも減るでしょう。産後うつ予防以外にも、様々な社会問題の解決につながっていくのでは、と思います。

 少数とはいえ、「男性の育休はステイタス」と考える人も出てきました。体力のある企業が率先し、取得を拡大してほしいものです。「育休のハードルはまだ高い」という人は、母親と赤ちゃんが退院する時や里帰り先から戻る時に、1週間でも2週間でも、たまった有休を使って育児に関わればいい。それなら多くの人ができるのではないでしょうか。

 せっかく健康に出産し、育児をスタートできたにもかかわらず、赤ちゃんを残して死を選ぶ母親が同じ社会にいることについて、私たちは重く受け止める必要があります。(宋美玄 産婦人科医)

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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3件 のコメント

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皆が等しく有給が取れる社会を

しろ子

自殺で言えば働き盛りの男性が最も多く、有給が取得しやすければ男女ともに生きやすい社会が来るのではないかと思います。 休暇や有給取得のしづらさは今...

自殺で言えば働き盛りの男性が最も多く、有給が取得しやすければ男女ともに生きやすい社会が来るのではないかと思います。

休暇や有給取得のしづらさは今に始まったことではありませんが、大企業が率先して始め、広まってくれることを切に願っています。私の会社はまだまだで、有給を取るなら代わりに出勤するスタッフを見つけてきて頭を下げてお願いするというのが通例でした。

周囲もそうしているし、自分だけがワガママ言えない…とこれまで5年間一度も有給をとったことがありませんでした。しかし考えてみればおかしい話で、労働組合に相談し、一部ではありますが仕組みが改善され、1週間の有給はほぼ強制的に消化する形式になりました。社会や会社の仕組みがおかしいことが問題の根源ですが、労働者自身もおかしいことはおかしいと声を上げて変えていかなければならないと感じています。

男性の育児休暇取得は推し進めていって欲しいですが、同時に独身者や子供のいない夫婦にしわ寄せが行かないよう企業や自治体が何等かの指針を出してもらいたいとも思います。介護や不妊治療で鬱になる人も沢山います。どのような事情を抱えた人も、等しく有給が取れる社会の到来を望んでいます。

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社会に存在する分かりにくい困難を共有する

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

うつは心の風邪とも言います。(この表現にも問題があるかもしれません。) 産後うつはどうでしょうか? そもそも、うつ症状とうつ病、あるいはうつ症状...

うつは心の風邪とも言います。(この表現にも問題があるかもしれません。)
産後うつはどうでしょうか?
そもそも、うつ症状とうつ病、あるいはうつ症状を呈する様々な心身の困難状態や疾患の区別はついていますでしょうか?
恐らく、産後うつにも様々なパターンがあるのでしょうし、これから解析も進むのかもしれないですね。

現代社会でうまく育ってきた少なくない若者にとって、日常からいわゆる困難は除外され、仕事を含む日常生活へ最適化された都市生活が存在しています。
仕事以外で嫌な事や苦手なことは極力やらないで良い日常と赤ん坊という暴君の出現に伴う様々な変化には大きな隔たりがあります。

おそらく、日本という社会において、命という数字を守るシステムは世界トップレベルなのでしょう。
医療だけでなく、衛生環境や生活インフラの要因も無視できません。

しかし、その前後で、新しい命や母親や家庭の心や生活を守る仕組みがまだ整っていないということなのではないかと思います。
必ずしも諸外国と比較するべきことでもなく、日本の文化や社会の状況に合わせたものが必要なわけで、どういう風にすればうまく回るのか、公的な枠組みだけでなく民間の組織の出現も待たれます。

サービスや物品の不行き届きという状況は角度を変えてみれば商業的チャンスです。
難病治療の研究で救われる命や健康だけでなく、ありふれたことになっている状況とその困難への無関心で失われる命や健康にも世間の関心が向かえばいいと思います。
(救急医療の問題が、医療の実際のワークフローが知られていないことにより悪化していることに相似です。)
見えにくい困難や分かりにくい困難は存在しないのではなく、無視されがちなだけです。

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構造問題に対する社会の関心や理解を促す

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

現場にいる宋先生から見て、旦那や家族の理解不足や参加不足が喫緊の課題のケースが多く見えるのでしょう。 ただ、一歩引いて考えてやると、社会全体の育...

現場にいる宋先生から見て、旦那や家族の理解不足や参加不足が喫緊の課題のケースが多く見えるのでしょう。
ただ、一歩引いて考えてやると、社会全体の育児や出産に関する母子神話や過重労働社会がまだ残る中で、多くの男性にとって育児参加が現実的かどうかというのも、理想は別として考えていかないといけないと思います。
現実と社会の同調圧力に板挟みの妊婦に向かう力が、若い男性に向くだけでは解決には向かわないでしょう。
男性のうつが増えるだけです。

僕自身が未婚の理由の一つですが、育児や家事がひどく苦手だったり、自分の人生や人格に強い劣等感を感じていたりする人間に無理をさせると共倒れになるリスクもあります。(サッカーと医療といくつかの学問以外では優秀ではありません。)
そういう人間は、周囲の産後や育児のサポートが期待できるパートナーを探す方が現実的です。
そういう意味でも恋愛と結婚は別物のケースもありますが、何も知らずに色々進めて不幸が生まれないためにも啓発活動を進める必要があります。

重要なのは、「産後うつ」問題だけではなく、似たような問題や解決策のグループと手を組んで啓発活動を進めることです。

産後うつ診療の主役の一つの産科も、産科救急やその他過重労働社会の中で、婚期や家庭に問題を抱える産科医も多いと思います。
「他人の命も大切だが、私の命や人生も大切」という当たり前の理屈が無視されるのであれば、若手は無理をしません。
一方で、考え方を変えて、別に産科医にならなくても、真面目な産科医に対して優しい関係者が増えれば良いというスタンスで人やアイデアを集めれば、少しずつ社会は変わるのではないかと思います。

先日は因縁の産婦人科と放射線科、病理の合同学会で、腹部画像の読み方の成長戦略の演題を出してきました。
真面目な産婦人科女医さんが出産育児のうちにパワーアップできる一助になれば幸いです。

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