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医療・健康・介護のコラム

「小学生の腰痛」「女子の食事制限」が危ない…スポーツ医学の学術集会で警鐘

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知っておきたい「女性アスリートの三主徴」

 今回は、女性アスリートの問題も大きなテーマとして取り上げられていました。女子選手が食事制限することにより「利用可能エネルギー不足」となり、「無月経」そして「骨粗しょう症」につながることがあります。これらは、「女性アスリートの三主徴」と呼ばれています。長距離選手や美しさを競う種目の選手に生じることが多いこの問題は、医療関係者の間でもまだ十分知られていません。

 この三主徴が生じると、疲労骨折のリスクが高くなります。骨量は20代である程度決まってしまうため、若い時期に骨粗しょう症になった場合、後で挽回することはできません。選手自身も知っておきたいことですが、指導者や保護者への啓発も大切です。

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室伏由佳さん、八王子スポーツ整形外科の理学療法士・佐藤正裕さん(左)と私(右)

 女性アスリートの発表で活躍したのは、ハンマー投げでオリンピックにも出場された室伏由佳さんでした。自らも原因不明の腰痛症(後に西良先生により脊柱管 狭窄(きょうさく) 症と確定診断)や月経困難症と向き合った経験について事例発表し、アンチ・ドーピングの教育研修講演をしたほか、2018冬季五輪~2020夏季五輪のセッションでは座長も務めておられました。医学の学会にも、室伏さんのような影響力のある方が、もっと多く参加できるようにすれば、今後の日本のスポーツ医学に大きな進歩をもたらすと思います。

小学生の腰椎分離症は悪化しやすい

 会長の西良先生は、成長期に生じる腰の疲労骨折である腰椎分離症の専門家です。今回の集会では、早期発見の重要性を述べられていました。成長期に腰痛があった場合、疲労骨折の有無を単純X線撮影だけで診断することは難しく、MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピューター断層撮影)を組み合わせた検査が重要です。また、小学生など若い時期に分離症になるほど、「すべり症」という腰椎がずれる状態に移行しやすいため、腰痛を我慢して競技を続けることは避けるべきです。(成長期の腰痛は疲労骨折かも!? ―腰椎分離症―

腰椎分離症の進行

有益な情報 スポーツを愛するみなさんに

 ほかにも、成長期の野球選手に多い肘の内側の痛みをテーマにしたシンポジウムや、今年の2月に韓国の (ピョン)(チャン) で開催された冬季オリンピックの帯同報告など、有益な情報が数多く発表されました。これらの情報はスポーツの現場に届いてこそ、生きた情報になります。それをみなさんに少しでも届けられるよう、私も本コラムを通じて微力ながら貢献していきたいと考えています。また、私たちが主催している「 スポーツ医学検定 」は誰でも気軽に受けられます。正しい医学知識をより多くのスポーツに関わる人で、共有していきたいと考えています。

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土地の名産に出会えるのも、学会の楽しみ。徳島ラーメンを堪能しました

 学会では新しい知識や着想を得ることができ、同じ志の人と語り合うことができ、そして、その土地の名産に出会えます。徳島では、阿波尾鶏、鳴門金時、すだち酒などをいただいたほか、徳島ラーメンの店を3軒訪問しました。学会後は、ちょっと体が重くなるのが難点ですね……。(大関信武 整形外科医)

【スポーツ医学検定のご案内】

 私たちは、スポーツに関わる人に体やけがについての正しい知識を広めて、スポーツによるけがを減らすために、「スポーツ医学検定」を実施しています。スポーツ選手のみでなく、指導者や保護者の方も受けてみませんか(誰でも受検できます)。

 第4回スポーツ医学検定
 2018年11月25日(日)
 第4回の申し込みを ホームページ で開始しています。第1回から3回の合格者については、合格認定カードの申し込みもHPで行っています。
 本文のイラストや写真の一部は、 「スポーツ医学検定公式テキスト」(東洋館出版社) より引用しています。

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大関 信武(おおぜき のぶたけ)

 整形外科専門医・博士(医学)、読売巨人軍チームドクター、日本スポーツ医学検定機構代表理事、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

 1976年大阪府生まれ、2002年滋賀医科大学卒業、14年横浜市立大学大学院修了。15年より東京医科歯科大学勤務。野球、空手、ラグビーを経験。スポーツ指導者などへのスポーツ医学知識の普及を目指して「スポーツ医学検定」(春、秋)を運営している。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村総合診療所整形外科ドクター。

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2件 のコメント

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医療以前の問題も踏まえた社会形成と専門家

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

知人女医が産婦人科専門医の上のヘルスケア専門医を取得したそうです。 思春期や更年期の問題もよく勉強したそうで、特に女子選手への関与の部分で整形外...

知人女医が産婦人科専門医の上のヘルスケア専門医を取得したそうです。
思春期や更年期の問題もよく勉強したそうで、特に女子選手への関与の部分で整形外科医との協力も期待されます。

教育の半分は理論より暗記というか宗教的な部分もあり、多くの患者さんのために、細かい理論よりも大まかな実践的な理屈を普及させるために資格や権威が効果的な部分もあります。
実際、最多の問題であるオーバーユースと過剰なダイエットをやめさせるのには細かい理屈や医療以前の問題のようにも思えます。
実績にしても能力にしても「○○歳までに○○を」へのこだわりの弊害ですね。

むしろ、社会形成や選抜育成システムの見直しも含めて、医療サイドから指導者や協会にどう働きかけるかの問題も絡みます。
プロの社会形成も絡みますが、アジア人の遅い成長曲線の中で、欧米並みに早熟選手ばかり選抜するよりもセカンドキャリアの準備を含めて、より大きなプレーチャンスと学習のパイを作るほうが指導者層や協会にも経済メリットが多いので考えるべき点です。
特に育成年代における「分かち合い」や多様性の側面を「奪い合い」やチーム統制よりも強化した方が厚みのある人材育成にも有用です。

冒頭の話に戻りますが、いま主力を担う整形外科医の方々からコメディカルだけでなく、他科医にもスポドクチームへの誘いの手を差し伸べてほしいですね。
今は情報インフラも整ってますから、海外チームに移籍した選手を支えるのに内科医や放射線科医などの重要性も増しています。

僕が整形外科医を選ばなかった理由の一つはサッカードクターセミナーで能力とやる気に溢れた整形外科医を沢山見たので、ポジションを変えようと思ったからです。
不必要な怪我や病気を減らし早期発見により重症化を防ぐために整形外科医やコメディカルも含めて日常と総合臨床、総合臨床と各科臨床の幅をどう埋めるか考える必要があります。

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スポーツの意義の見直しと普及のための施策

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

同日程のMRI学会に参加のため行けませんでした。 小学生の腰痛も女子の過度のダイエットによる月経異常もつまるところは目先の結果にフォーカスしすぎ...

同日程のMRI学会に参加のため行けませんでした。

小学生の腰痛も女子の過度のダイエットによる月経異常もつまるところは目先の結果にフォーカスしすぎたオーバーワークの産物です。
進学校だと逆に部活の時間への制限がつくところも多いですが、さじ加減は非常に難しいものがあります。

100%以上の復帰に関しては異論があります。
一定以上の損傷はおそらく回復に限界があります。
しかしながら怪我を通して競技や肉体と向き合うことで、より深い洞察や動作が可能になるのだと思います。
言い換えれば「それまで100%と信じてきたことは100%ではないということを認めて進歩する」ことが敗北や怪我という大きな挫折の先にあるのが我々凡人なのだと思います。
だからこそ、大怪我を乗り越えてプレースタイルを変えても輝く選手が沢山います。

自分は公式記録ではあまり輝いていませんが、マンマークとカバーリングのいわゆる守備職人だった20年前の自分が、後にドリブルデザイナーと引き分ける未来を知ったらびっくりすると思います。
25歳過ぎたあたりからコツがわかってきてうまくなりました。
プロやアマの大会の制約はあれど成長の速度も偏りも人それぞれで楽しみ方の多様化も進むべきでしょう。

体育やプロ興業だけではなく、教育や生きがいや繋がりとしてのスポーツの側面が徐々に広まればと思います。
それは文化や産業を進歩させるエネルギーになると思います。
物理の問題だってボールを投げたり蹴ったりした経験があれば理解も速いでしょう。
物理や解剖学・生理学がだいたい分かっていると同じ身体能力でのボディコンタクトも強くなります。(勉強熱心なベテランがうまくなる理由)

そういう共通理解の普及には時間もかかりますが、スポーツ産業を発展させるためにも子供が致命傷を負ったりスポーツを嫌いにならないように環境や啓発活動を整えていくべきですね。

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