心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
「山田一郎症候群」「鈴木和子病」……その人だけの症状を認めよう
医師は患者の症状を診て、自身の医学的知識に照らし、どこにどんな病気があるのかを診断します。でも過去に例がない、あるいは経験したことのない症状や検査結果ということもあります。その場合でも、すでに知られている病気のバリエーションではないかと考えて、なるべく、すでに確立している病名をつけようとします。
それでも、その人固有の様々な自覚症状が私自身の知識の中にも教科書にもなく、既知の病名をつけられないケースにぶつかることも時にはあるものです。
例えば、眼科であれば、 眼 や視路(眼球に入った情報が脳に届くまでの神経ルート)に異常もなく、眼球の位置や動きも正常なのに、ものがゆらゆらして見えるとか、ぎらぎらしてまぶしいとか、見ていると気分が悪くなる、といった独特な症状を訴える患者さんが少なからずいます。以前は、診察上の異常が見つからず、説明できない場合は、詐病とか気のせいだろうと片付けてしまう医師が大半でした。
病名をつけることは患者が病気と付き合う第一歩
でも、症例によって自覚症状の表現の仕方はいろいろです。その発症メカニズムが不明確ではあっても、その患者が訴える症状は確かに存在するのだと認め、患者に告げることは重要です。それは、医師によって何らかの病名を与えることに他なりません。そのことは、患者がその症状や病気と付き合っていく第一歩になりますし、研究課題としても整理されるからです。
何かわからない症状があると、古くはよく自律神経失調症などという病名をつけたものですが、最近はもう少し整理され、特異性の高い新しい病名が登場しています。
この連載でもとりあげた化学物質過敏症や線維筋痛症はそうした病名のひとつです。他にも、画像検査などでも異常がわからない脳や神経系の機能障害として、高次脳機能障害、脳脊髄液減少症、慢性疲労症候群、脳過敏性症候群といった比較的新しい病名もあります。
最も新しいといえば、私どもが命名した「眼球使用困難症候群」という病名でしょうか、患者の視点から、どう不便なのかを表現したつもりです。メカニズムは不明でも、視覚を使うことに著しい不都合があることを理解してもらうのにはよい病名だと思っています。
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