いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓
医療・健康・介護のコラム
胎児エコー検査は出生前診断だった 「何か異常」のあいまいな診断を悲観し、中絶を選んだ妊婦
「あなたは赤ちゃんを生む前に、出生前診断を受けましたか?」
こう質問すると、大多数の人が「私は受けていません」と答えるでしょう。しかし、それは正しくありません。出生前診断を受けていない妊婦は、ほとんどゼロです。なぜならば、だれでも胎児超音波(エコー)検査は受けているからです。
男か女か…も出生前診断の一つ
胎児に対する超音波検査は、私が医師になった1987年には、すでに行われていました。しかし、当時の超音波検査は画像がきれいではなく、その役割はあまり大きくありませんでした。しかし、メーカーの開発競争が進み、超音波検査の解像度は飛躍的に向上していきました。
産科の先生が胎児超音波検査を行う第一の理由は、胎児の病気を見つけるためではありません。赤ちゃんの発育状況、体の向き、羊水の量、胎盤の位置、そういった妊娠経過のすべての情報を集めるのです。
胎児エコーで赤ちゃんの性別が分かることも多々あります。あらかじめ男女の別を知りたいというカップルも多くいますので、胎児エコーは医療者と家族をつなぐコミュニケーションのツールにもなります。お 腹 の中で動く赤ちゃんをエコーの画像で見て、赤ちゃんへの愛を育んでいった経験のある人はたくさんいるのではないでしょうか。よく考えてみれば、男女の別を教えてもらうということも、出生前診断の一つと言えます。
見えてほしくないものまで見え…
私が医師になって10年たった97年頃には、胎児エコーは相当精度が高くなりました。そうすると、ある意味で「見えてほしくないものまで見えてしまう」ということが起きるようになりました。
まず、産科の開業医が胎児エコーをし、何らかの病気の疑いがあると、妊婦を大学病院に送ります。大学の医師は、紹介を受けた以上、絶対に間違いがないよう、時間をかけ、目を凝らして胎児エコーをやります。異常がはっきりと分からないときは、われわれ小児外科医もエコーの場に呼ばれ、一緒に画像を見ました。
この当時の産科の先生は、新生児外科疾患の治療の仕方や治療成績をあまり知りませんでした。病気を見つけ、小児外科医や小児循環器科医に連絡を取るのが精いっぱいでした。したがって、胎児の内臓に奇形があることが分かると、小児外科医が手術の説明や長期的な見通しを説明していました。
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