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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

診療報酬がほぼ付かない「患者の生活改善支援」…眼科のソーシャルワーカーへの評価は正当?

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すぐに回復する手段がない患者…医療SWの聞き取りと対策提案

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 ところが、現状では、そうした手厚いソーシャルワークのほとんどに診療報酬が付いていません。「入院」「退院支援加算」という項目がわずかにSWの業務と関連しますが、これは看護師の業務として算定が可能なものです。

 このため、外来での関わりが大半を占める眼科などの単独の診療科では、大半が専属の医療SWを雇用できません。

 これらの背景には、眼科におけるSWの仕事の実態が、なかなか伝わっていないこともあるでしょう。

 そこで、前回のコラムでお話しした今年の心療眼科研究会で、私の勤務先のSWが、目の痛みを訴える患者さんにどんな対応(ソーシャルワーク)をしたのかについて発表したので、その内容を紹介します。

 患者は、31歳のシステムエンジニアの男性です。「4か月前から目の奥の痛みと (まぶ) しさで、目を開けても見えないため、仕事を休んでいる」とのことでした。

 男性の眼球自体には、症状をはっきり説明できる病気は見つからず、すぐに回復する手段もないため、改善の見通しが立たない状況でした。

 そんな中、私の勤務先の医療SWはこの男性と面接して、以下の4点の問題点をつかみました。

 1)労働時間が過酷な状態にある

 2)ハローワークに行ったが、障害者手帳がないと、希望する形での転職は無理だとい われた

 3)奨学金返済が負担になり、傷病手当金支給があと6か月もない

 4)効果が期待できる治療計画はない

 そして、以下の対策を提案しました。

 1)問題は職種よりも働き方にある

 2)障害者としてではなく若年層への就労支援を活用する

 3)奨学金は延納願いを提出する

 4)現行の視覚障害者としての基準には適合しないため、うつ傾向があることに注目し、精神的な面の問題から解決方法を探る

症状軽減への貢献…「評価」がないのは正当ではない

 つまり、この医療SWは、男性ができることや現在の環境を考えながら、今やるべきことを整理したわけです。男性が目の痛みによって、仕事や生活でどのような不自由や悩みがあるのかを丁寧に把握した上で、仕事や暮らしの環境を整えるようにしたわけです。

 その後、男性は精神科を受診しました。視覚障害者としては認められなくても、精神疾患を持つ人への医療福祉サービスを利用できる可能性が分かりました。すると、3か月後には、眩しさは残るものの目の痛みはほぼ消えました。

 医療SWは、男性に対して、医学的な面で痛みの治療はしていません。しかし、経済面や職場環境など社会的な状況が原因となって発生した症状を軽減することに貢献した、といえるのではないでしょうか。

 こうした医療SWの活動に対して、診療報酬などの評価がないのは、やはり正当ではないと私は考えます。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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