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不妊と向き合う(1)治療と仕事、両立の悩み…理解不足の職場も

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 不妊の検査や治療を経験している夫婦は、5・5組に1組に上る。子どもが欲しくてもなかなか授からない人にとって不妊治療は有力な選択肢だが、仕事との両立や治療のやめ時などに悩む人も多い。家庭や企業、社会が不妊とどう向き合うかを考える。

 「8年間働いた歯科の受付をやめて治療に専念したのにうまくいかず、病院と家との往復でストレスだらけでした」。通算18年間の治療を4年前に終えた沖縄県の女性(47)は、そう振り返る。

体外受精を繰り返した首都圏の女性が受け取った領収書と、移植時の胚の写真。体外受精は保険が適用されず、治療は高額になる

 タイミング法から始め、34歳で体外受精に進み、何度も胚を移植した。1回の治療に通院と待ち時間合わせて5時間。注射のためにほぼ毎日通院した時もあり、愛着のある職場を離れた。子育てしていないのに仕事もしていない中ぶらりんの状態に「社会から取り残されたように感じた」。体外受精は1周期あたり約40万円で経済的不安も増した。

 結局、2回妊娠したがいずれも流産。治療費は総額800万円になるという。貯金を崩し、生命保険も解約した。現在は患者支援の活動を始めるべく、準備を進めている。

 不妊治療患者らを支援するNPO法人Fine(ファイン)が2017年に行った調査では、仕事をしながら不妊治療をした人のうち、両立が困難なために20%が退職、8%が転職していた。理由は「通院回数が多い」「診察・通院に時間がかかる」の順に多かった。

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 日本産科婦人科学会の調査では、年齢別にみた治療件数(15年)は38~42歳でいずれも3万件超。働く女性の増加や晩婚化に伴い、職場で責任ある立場の患者も多そうだ。だが、治療はそうした立場にはお構いなしだ。Fine理事長の松本亜樹子さんは「不妊治療では、卵子の入った卵胞の状態を見ながら治療が進む。卵胞を育てる注射や薬の種類・量は個人によって異なり、急に通院が決まることもある」と指摘する。

 両立に悩みながら不妊治療を受けても、必ず妊娠・出産できるとは限らない。治療経験者の女性(47)は、「有名人の高齢出産が話題になり、40歳を過ぎてからの妊娠もそれほど難しいことではないと勘違いしていた」と悔やむ。

 退職や転職までには至らなくても、思い描いたキャリアが揺らぐ例もある。東京都の女性会社員(36)は留学経験があり、以前は海外駐在も視野に入れていた。結婚後、「まずは子どもを」と海外赴任の希望を見送ったが、予想以上に不妊治療が長期化。「こんなことなら希望を出すべきだった」と後悔した。今は1児の母になった。

 職場の人間関係にも影響を及ぼす。男性不妊で体外受精に進んだ都内の女性会社員(29)は、妊娠したが流産。同じ頃に同僚が妊娠し、「精神的な波」に 翻弄ほんろう された。「周囲は『子どもはかわいい。絶対作った方がいい』と言う。今はそれが一番嫌」

 Fineの調査では、職場の理解不足を嘆く声も多く寄せられた。「治療で休みが増えることを上司に告げると『妊活か仕事か選べ』と言われ、退職した」「治療内容を知らない人が多く、『また休むの?』と言われた」などだ。

 妊娠前のこうした発言を、Fineは「プレ・マタニティハラスメント」と定義する。松本さんは「こうしたハラスメントにより、仕事を続けられなくなる人は後を絶たない。管理職教育を通じ、職場で不妊に対する理解を深めてもらうことが必須だ」と話す。

体外受精児年5万人
 国内で初めて体外受精で赤ちゃんが生まれたのは1983年。日本産科婦人科学会の調査では、2015年に国内で行われた体外受精で5万人超が生まれ、過去最多となった。赤ちゃんの19人に1人が体外受精で生まれている。ただ、この治療で出産に成功したのは、30歳では21.5%だが、40歳では9.1%に下がる。

 また、国立社会保障・人口問題研究所によると、15年には夫婦の5.5組に1組が不妊検査や治療を経験している。

不妊治療 子を望む男女が避妊をせずに性交し、1年たっても妊娠しない場合を「不妊」と言う。それを治療するための医療行為が不妊治療。排卵周期に合わせた性交を指導する「タイミング法」、精液を子宮に注入する「人工授精」、卵子と精子を体外で受精させて胚にし、体内に戻す「体外受精」などがある。

◎意見募集
 不妊治療について、仕事との両立などに関する体験談や記事への意見をお寄せください。住所、氏名、職業、年齢、連絡先を書き、〒100・8055読売新聞東京本社生活部「不妊と向き合う取材班」へ。ファクス(03・3217・9919)、電子メール(kurashi@yomiuri.com)でも受け付けます。

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