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望ましい最期(4)認知症、家族が決断…胃ろう処置、本人に代わり

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認知症、家族が決断…胃ろう処置、本人に代わり

村田洋子さんは夫・幸雄さんの胃ろうを決め、寄りそう(7月、熊本市中央区で)=秋月正樹撮影

 7月中旬。熊本市中央区の表参道吉田病院で、村田 洋子ひろこ さん(66)は、ベッドに横たわる夫・ 幸雄ゆきお さん(70)の手を握り、耳元でささやいた。

 「お父さん、ごめんね。ありがとう」

 幸雄さんは認知症が進行し、言葉を発したり、手足を動かしたりすることができない。1日3回、腹につけた管から直接、胃に栄養や水分を注入している。胃ろうと呼ばれる処置だ。

 熊本県警の元白バイ隊員で、病気知らずだった幸雄さん。若年性認知症と診断されたのは、57歳の時だった。認知機能や体力が少しずつ失われていき、2015年7月、食べ物や唾液が気道に入って肺に炎症が起こる 誤嚥ごえん 性肺炎を起こし、別の病院に入院。その後も誤嚥を繰り返して衰弱し、2か月後には口から食べることができなくなった。

 この年の末、洋子さんは当時の入院先の医師から、幸雄さんに今後できる医療行為の選択肢を示された。このまま何もせずに 看取みと るなら余命は1か月。点滴を続ければ、半年ほど。そして、鼻から食道に管を入れる「経鼻経管栄養」か、腹に穴を開ける胃ろうで命をつなぐか――だった。

 意思を聞く機会のないまま、幸雄さんの認知症は進んだ。洋子さんには、胃ろうに抵抗があった。10年ほど前に看取った実母も、口から食べられなくなり、管で栄養を取っていた。身動きできず、じっと病室の天井を見ている姿が、「生かされている」ように映っていたからだ。

 判断に迷った洋子さんは、ベッドの上の夫を見つめた。

 妻を妻と認識しているか、分からない。それでも、手を握れば、その指にわずかに力が入る。夫は昔、「俺が死ぬときはお前も一緒だ」と冗談を言っていた。仕事を一番にしているようで、家族と過ごす時間は大切にする。そんな人と、わかっていた。

 長女夫婦や長男を福岡から呼び、家族で話し合った。「お母さんが(延命を)望むなら、お父さんもきっと同じ気持ちじゃないかな」。子どもたちの言葉が、洋子さんを決断させた。幸雄さんに胃ろうをつくることを、本人に代わって選んだ。

 「生きていてくれるだけでうれしいけど、本人はつらいかもしれない。医学が発達し、いろいろな方法で延命できるようになった分、家族が本人に代わって背負うものは大きい」。洋子さんはそう話す。

 厚生労働省研究班の推計では、認知症の人の数は12年に462万人で、15年は約500万人。25年には約700万人まで増えるとされる。家族は、時に命にかかわる選択を迫られる。

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 京都府立医科大の 成本迅なるもとじん 教授(老年精神医学)らは認知症の人への医療行為について、本人を交えて話し合う時のヒントを示したガイドを作成。症状が軽度なうちから、本人に延命治療の意思を聞き取っておくことを勧めている。

 認知症はいずれ進行し、時間がたつほど意思の確認は難しくなる。家族の介護力など周囲の状況も変化する。成本教授は「誰か1人が決めるのは、あまりに負担が大きい。本人にとって何が良い選択か、家族や医師、ケアマネジャーなど複数の関係者で、繰り返し話し合うことが望ましい」と訴えている。

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