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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

慢性化した目の痛み…「心の持ちよう」による痛みだったら仕方ない?

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 私は心療眼科を専門の一つにしていますが、この分野に関わる医師たちが今年7月14日、東京に集まりました。第12回心療眼科研究会は、私が企画運営を担当して、テーマは「眼 疼痛(とうつう) の心身医学」としました。

眼球に直接痛みの原因がない…難しい課題

慢性化した目の痛み…「心の持ちよう」による痛みだったら仕方ない?

 心身医学は、体と心の両面から患者の症状をみる総合的な医療です。日本心身医学会の歴史は、その前身となる「日本精神身体医学会」発足から数えると来年で60年を迎えるそうです。

 現代では、各診療科に心身医学の視点は絶対に必要だと思います。内科はもちろんのこと、女性心身医学、小児心身医学、歯科心身医学などの学会があり、それぞれ30年以上の歴史があります。

 一方、眼科の心身医学を扱う心療眼科研究会は、開催回数が示すように、まだ歴史の浅い学会です。

 それでも今回は全国から70人以上が参加して、招待講演、特別講演のほか、過去最多の7件の応募があった一般講演などが行われて、主に、目に痛みを感じる「眼疼痛」について、3時間半みっちり話し合いました。

 今回の発表や意見交換を通じて、「眼疼痛」の中でも、眼球に直接痛みの原因がない「慢性疼痛」や、発生メカニズムが似ている「 羞明(しゅうめい)(まぶ) しさ)」がいずれも、眼科の日常診療の中でいかに解決しにくい問題であるのか、私も改めて痛感しました。

慢性疼痛の統計に「眼痛」がない現状

 東京女子医科大学神経精神科の西村勝治教授が、「慢性疼痛の心身医学」をテーマに特別講演をしました。

 慢性疼痛は、日本人の成人の13~23%が持っている症状とされています。今回の講演でも紹介されましたが、腰、肩、上下肢、頭部、胸部の痛みがよく話題に上ります。

 西村さんは、体の痛みが、頑固で治りにくい「慢性疼痛」に移行しないようにするためには、早期に適切な対応が必要なことや、薬物治療の一方で患者の「認知」「感情」「行動」といった側面をしっかり評価して対策を講じることが重要だと訴えていました。

 この内容には大いにうなずけましたが、気になる点もありました。慢性疼痛の保有率を示す統計がいくつかある中に、「眼痛」という項目が一つも出てこなかったことです。

 現在、痛みを扱う主な診療科は、整形外科、一般内科、神経内科、心療内科です。精神科は、このような他の診療科と連携する「リエゾン精神科」の部門で扱うことが多いようです。

 こう見ると、目の慢性疼痛は、疼痛研究の世界できちんと認識されておらず、ただでさえ他の医療分野と比べて遅れているといわれる疼痛研究の中でも、 俎上(そじょう) にものらなくなってしまうのではないでしょうか。実際には、この症状に苦しんでいる患者は少なくないのに、です。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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