在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
「孤独な食卓」が健康にもたらすこと
今年の夏休みも、子どもたちと海水浴へ出かけたり、動物園で写生をしたりと、たくさんの思い出を作ることができました。
8月上旬には、子どもたちは横浜の祖父母の家に1週間ほどお泊まりに。
夫が子どもたちを迎えに行ったため、ひとりぼっちで過ごした夜、なぜか無性にタコ焼きを食べたくなりました。そこでタコ焼き器を引っ張り出しての「一人タコ焼き」です。いつもは焼きあがると、にぎやかに子どもたちの取り合いが始まるのに、目の前には一人ではとても食べきれない分量が出来上がりました。
そのとき、猛烈に寂しさがこみあげてきました。人が最も「孤独」を感じるのは、「一人ぼっちの食事の瞬間」かもしれないと思いました。
イギリスには「孤独担当大臣」が
今年1月、英国で「孤独担当大臣」が任命されたというニュースがありました。国の政策として「孤独」という問題に取り組もうとする試みです。
その背景には、研究によって「孤独」が人の健康に悪影響を与えることがはっきりしてきたことがあります(※1)。「たばこの本数を減らす」「お酒の量を減らす」「体重を適正に保つ」などよりも、「社会とのつながり」や「社会的なサポート」などの方が、死亡率を低下させたのです。「生活習慣の改善」を訴えるだけでは不十分だったわけです。
一人暮らしの高齢者の訪問栄養指導に訪れると、「一緒に食べていってくれんか」と頼まれることが多く、そんなときには時間の許す限りご一緒するようにしています。せっかくの機会ですから、 咀嚼 力や食べ方、食事の姿勢なども確認するようにしていますが、お年寄りからは「誰かと食べると、同じ料理でもおいしく感じる」と言われます。
そもそも独居の高齢患者さんの食事では、ごはんやパンなどの炭水化物に偏り、野菜や肉類はほとんど食べていないケースが目に付きます。「孤独な食卓」は食欲だけでなく料理をする気持ちも湧かず、つい簡単に済ませてしまうようなのです。
同居でも「孤独な食卓」は死亡リスクを上げる
ある日、80代の女性宅を訪れると、同居のご家族は不在。白いおむすびがひとつ、介護ベッドの上に置かれていました。この女性はキッチンまで歩いていくことが出来ず、食事はすべてご家族が用意しています。おむすびだけでは栄養が足りないのは明白ですので詳しく聞いてみると、どうやらこの女性と家族の関係はあまりうまくいっていないようでした。それがひとつの白おむすびに凝縮されているようです。もちろん、家族内の関係の複雑さだけではありません。どこの家庭でも言えることですが、経済的な事情や介護者の考え方が、食生活にも反映されるのです。
昨年、東京医科歯科大の研究チームが発表した「高齢者の孤食についての調査」(※2)によると、「孤食の高齢者は、誰かと一緒に食事をする高齢者よりも死亡リスクが高くなる」ことが明らかになりました。特に興味深かったのは、「家族と同居しているけれど孤食」の男性の方が、「独居で孤食」の男性よりも死亡リスクが高かったことでした。「孤独」がもたらす健康への悪影響を考えると、高齢者が誰かと一緒に食事する環境をつくることが健康にもつながることはある程度予想できましたが、「一人暮らしの孤独」よりも「同居人がいながら孤独」のほうがさらに深刻なことがわかったのです。家族と一緒に住んでいるからといって安心せず、どのように毎日の食生活を送っているのかについても注意深く見守っていく必要があると考えられます。
みんなで輪になっての食事で、「塩むすびをひとつ……」、ということはまず考えられません。人が集うとき、料理の品数は増え食卓がにぎやかになります。食事環境によって、摂取する栄養の質も変わってくるのではないかと思います。
「おすそわけ」の文化をふたたび
地域の要介護高齢者の事例検討会などでも、一人暮らしの高齢者の食生活が問題として挙がってきます。その対策としては「配食サービス」や「買い物代行」など物理的なサービスを導入する案ばかりが議論されているように感じます。そんなとき、その高齢者の近所に「料理上手でつい料理を作りすぎてしまう、おせっかいのおばちゃん」がいたらいいのになぁと思うのです。作りすぎた料理の「おすそわけ」。昔は、そういうご近所付き合いをよく見かけたものです。
仙台市には「地域住民同士の助けあい活動」を展開している女性がいます。だれでも立ち寄れるサロンを作り、ボランティアの方と食事を用意して、日中に自宅で一人になってしまう高齢者と一緒に食べるのです。
近年、全国的に「子ども食堂」が増えていますが、もっとだれでも安心して行けるような「だれでも食堂」も必要だと思います。孤独や貧困で苦しんでいるのは子どもだけではないからです。老若男女が集うにぎやかな食卓で、美味しい料理を味わいながら温かい人の絆に触れることは、どんな薬よりも健康によいのではないかと思います。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)
※1 Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med 2010;7(7):e1000316
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ただ困るのは話し相手がおらず自分の中で完結しても溜まるばかりで鬱になりそうになることかなww
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誰でもいける食堂でもお値打ちな焼き芋屋さんでもいいから出かける目的が欲しいです。
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私は82才で外国住まいですが孤独な食卓を32年間続けております。息子家族は10キロ程離れたところに住んでいますが食事を共にするのは2け月に一回くらいですが一人での夕食はのんびりとテレビを見ながら食べます。寂しいと思ったことはありません。
友達や家族でも気を遣いますから一人が良いです。
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