いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓
医療・健康・介護のコラム
「愛するがゆえ」に2歳女児への輸血を拒否した母…1年後再入院し、看取ることに
私が小児外科病棟で、小児がん治療のリーダーを務めていたとき、2歳の女児が入院してきました。胸とお 腹 の境あたりに3センチくらいの出っ張りがあることが、入院の理由です。丁寧に触診すると、単なる皮下の良性 腫瘍 とは違っているようでした。私は女児に軽い麻酔をかけて、X線CTを撮影してみました。
手術だけでは再発・転移 抗がん剤治療をすると輸血が必要だが…
腫瘍は胸の奥に向かって根深く広がり、肋骨にも浸潤しているように見えました。この場合、小児がんを疑う必要があります。翌週、女児は手術予定となりました。手術をしてみると、腫瘍は深く広がっていましたが、 肋骨 を一緒に切除することなく、摘出できました。手術が終わると、私は早速、摘出した組織の標本を病理検査部に提出しました。
1週間たって結果が届きました。病理診断は、「未分化神経外胚葉性腫瘍」というものでした。大変珍しい小児がんです。学会に報告されるような希少疾患です。でも、私はこの腫瘍を治療した経験がありました。治療は、外科手術だけではまったく不十分です。このまま放置すると、100%再発・転移します。治療の鍵を握るのは、抗がん剤治療です。
私は母親に、抗がん剤の投与計画を説明しました。全治療期間は1年を超えます。また、抗がん剤の副作用の説明もしました。嘔吐すること、髪の毛が抜けること、骨髄の造血幹細胞がダメージを受けるため、輸血が必要になることです。治療開始は1週間後と告げました。
母の意向に、上司はあっさり治療をあきらめ
予期せぬことが翌日に起きました。母親が、「病棟の責任者に会って、もう一度話を聞きたい」と言うのです。要件はわかりませんでしたが、私ではなく准教授が対応しました。私は、面談室に入っていく母親と准教授の後ろ姿を見守りました。意外なことに、2人はすぐに面談室から出てきました。准教授は、私たち医師の前に歩み寄り、「ダメだ。退院させる。あの子の両親は宗教的な理由で輸血を拒否している」と告げました。
私は思わず、「え、それって、子どもを見捨てるってことですか!」と叫んでいました。あっさりと治療を 諦 めてしまう准教授の方針にも不満でしたが、私は親の考えに腹を立てました。これでは一種の医療ネグレクト(育児放棄)ではないか? 私は女児のいる個室へ駆け込みました。
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