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インフルエンザ大流行の反省…ワクチン供給 仕組み見直し

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インフルエンザ大流行の反省…ワクチン供給 仕組み見直し

 昨シーズンのインフルエンザは例年になく大流行した。感染症法が施行された1999年以降、最大となる。主な原因は、複数の種類のウイルスが同時期に流行したこと、というのが国の考えだ。しかし、医療現場には、ワクチン供給の遅れが流行拡大につながったとする見方もある。

 「患者さんにワクチンを打ってあげられない」

 「いつ手に入るかわからないのでは接種スケジュールが立てられない」

 昨年10月、開業医の団体である東京保険医協会には、ワクチンが入手できない医師からいらだちの声が寄せられていた。例年ならワクチン接種が進んでいる時期。入荷の見通しが立たない診療所が続出していた。

 インフルエンザの予防ワクチンは、そのもととなるウイルス株を使って春頃に製造を始める。製造に使うウイルスは4種類。国立感染症研究所(感染研)の専門家グループが毎年、次のシーズンに流行が予想されるものを選ぶ。

 昨年は、製造が始まった後、使っていた1種類のウイルスが、想定より増えにくい性質だとわかった。別のウイルスを選んで作り直し、供給は大幅に遅れた。10月時点の供給量は、前年同期に比べ3割ほど少なかった。

 こうした事態に対し、厚生労働省と感染研は今年6月、「流行拡大の要因となった可能性は否定的」と発表。流行拡大の理由には、複数のウイルスの流行を挙げた。

 確かに、昨シーズンは主に3種類のウイルスが流行した。B型の一種が最も多かったが、A香港型など2種類のA型ウイルスも多かった。

 ただし、大流行とワクチン供給の遅れに関する詳しい調査はなく、無関係と裏付けられたわけではない。開業医らでつくる日本医師会(日医)常任理事の 釜萢敏かまやちさとし さんは「供給に問題がなかったとは言えない」と厳しい目を向ける。

 日医の調査では、9割の医師が、希望者に接種できないなどの影響があったと答えている。この調査をまとめたあだち医院(兵庫県加古川市)院長の足立光平さんは「ワクチンを接種できる医療機関を探すのに必死な患者さんもいた。余裕をもって接種できるシステムがあれば」と嘆く。

 国内のワクチンメーカーは4社しかなく、製造が滞ると卸業者や発注量の多い医療機関に入荷が偏り、小さな診療所はワクチン不足に陥りやすい。自治体や地元医師会が間に入って偏りなく配分しているところもあるが、一部にすぎない。

 昨シーズンの反省を踏まえ、国は今年から、ワクチンの種類を選ぶ仕組みを改めた。感染研だけでなく、外部の有識者も含めて検討する委員会で幅広く意見を集めて決める。ただ、根本的な解決策とは言いがたい。

 川崎市健康安全研究所長の岡部信彦さんは「国の見解と現場の実感がかけ離れることのないよう、国は安定的な供給と適切な情報提供ができるシステムを検討すべきではないか」と指摘している。

新型に備え 新手法も

 インフルエンザワクチンは、感染力をなくす処理をしたウイルスを注射して免疫をつけ、症状の悪化を防ぐ。鶏卵の中に注入して培養したウイルスから製造され、国の検定に合格したものが使われる。

 最近は、1シーズンに複数種類のウイルスが流行することが多い。そこで、A型とB型のウイルス2種類ずつ計4種類を混合してワクチンにする。どのウイルスを使うかは、国内外の流行の様子から判断する。

 製造に使う卵は、病気にならないよう注意深く管理して育てたニワトリのものでなければならず、十分な量を準備するにはコストや手間がかかる。しかもワクチン製造には半年近い時間が必要で、トラブルがあれば供給の大幅な遅れにつながりやすい。

 毎冬はやる季節性インフルエンザとは性質の違う「新型インフルエンザ」が流行した場合、ワクチン供給の遅れは、より深刻な事態を招きかねない。新型インフルエンザは急速な流行拡大や重症化のおそれがあるためだ。

 課題の解消に向け、近年、ワクチンの新しい製造法の開発が進んでいる。動物や虫などの細胞を使う細胞培養法と呼ばれるもので、これまでより短期間に低コストで製造できる。新型インフルエンザの流行に備え、国は今年度中に、この方法で製造できる体制を整える方針だ。

 (鈴木希)

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