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コラム

『発達障害に生まれて――自閉症児と母の17年』 松永正訓著

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「障害」と向き合い続けた母と子の軌跡

 母は 呆気(あっけ) に取られた。そして医師に反論した。

「この子は笑いますし、目だってそこそこ合います。私の知っている自閉症の子とは違います!」

 初めてわが子の障害を告げられたとき、親は混乱する。取り乱すこともあるだろう。本書には、自閉症という個性とともに生きた母子が描いてきた心の軌跡が、包み隠さず描かれている。

 ヨミドクターで大きな反響を呼んでいる連載コラム「いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち」を執筆する小児外科医・松永正訓さんの新著。同連載についての意見や問い合わせを受ける中で、母親・立石美津子さんと勇太くん(仮名)に出会い、取材が始まったという。

 母と子の17年は、 平坦(へいたん) な道ではなかった。買い物客でごった返す渋谷の大型家電量販店で姿を見失ったこと、京王井の頭線の車内で大暴れして乗客になじられたこと、予防接種を受けたクリニックでパニックとなりガラス窓に頭突きをしたこと、通っていたスイミングスクールにいられなくなった日のこと……。次々と訪れる困難を前に、もがき、涙し、一方では幸せな時間も与えられながら、母子の過ごした時間は、障害というものを心に受け入れていく過程でもあった。

社会の息苦しさを振り払う一陣の風に

 評者は松永さんの連載「いのちは輝く」の担当者であると同時に、自閉症者(25)の親でもある。当事者や家族にとって、「障害の受容」とは終わりのない旅だ。途中、自分自身の内にある偏見や差別意識、未成熟さと絶えず向き合わされる。ただし、子育てに困難があるからといって、不幸なわけでも、何か特別なわけでもない。

 母にとっての最大の願いは、勇太君が人生最後の日を迎えるときに、「ぼくの人生、幸せだった」と (つぶや) いて天国に行けることである。

 親の思いが、幾多の曲折を経てそこにたどり着くのなら、その「最後の願い」は、わが子に障害があろうとなかろうと違いはないだろう。

 松永さんは「あとがき」にこう書いている。「私たちの社会は多様さの重要性が本当の意味でまだ根づいていないような気がする。息苦しさを感じている人もたくさんいるだろう。立石さん親子の生き方は、そうした息苦しさを振り払う一陣の風という感じだった」

 本書が、障害当事者に限らない多くの人のもとに届き、その心を軽く、そして柔らかくしてくれることを願いたい。中央公論新社から、税別1600円。(梅崎正直 ヨミドクター編集リーダー)

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