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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

胃破裂で運ばれてきた生後3日の赤ちゃんに、父親は「今すぐ輸血をやめてください!」

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 その頃、私はまだ20代で、徹夜続きでも平気で働ける体力がありました。冬のある夜、当直をしていると産院から電話がかかってきました。生後3日の赤ちゃんが全身チアノーゼでぐったりと元気がなく、お (なか) がぱんぱんに張っているという緊急連絡でした。私は「救急車で赤ちゃんを送ってください」とお願いしました。

時間の猶予はない しかし、父親は…

 運ばれてきた赤ちゃんはショック状態でした。すぐに点滴を入れて急速に輸液をしました。急きょお腹のX線写真を撮影すると、消化管から漏れた空気でお腹全体が膨れ上がっていました。こういう病気は一つしかありません。それは新生児胃破裂です。原因は不明ですが、生まれて数日 () った赤ちゃんの胃が突然裂けてしまう病気です。

【名畑文巨のまなざし】

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ポジティブエナジーズ(その7) 世界をめぐり撮影したダウン症の子どもたちは、みなポジティブなエネルギーにあふれていました。ミャンマーの2歳のダウン症の女の子は、本当に元気でパワフル。障害のある子どもからは、純粋な感情がストレートに伝わってくるのを感じますが、彼女も「ママ大好き!」の気持ちが瞳にあふれていて、ママもその気持ちに全力で応えていました。ミャンマー・ヤンゴン市にて

 赤ちゃんにモニターを付けて、点滴のラインを2本に増やし、 膀胱(ぼうこう) の中に管を入れて尿がどのくらい出てくるかをチェックしました。人間はショック状態に陥ると、尿が出なくなります。そういう状態では手術はできません。大量に輸液して尿が出始めたら手術しようと考えたのです。

 血液検査の結果を見ると、赤ちゃんはひどい貧血でした。裂けた胃から出血しているのです。すかさず輸血も始めました。やがて、赤ちゃんの血圧は少しずつ上昇し始めました。あと1時間くらいすれば、手術まで持っていけるかもしれません。そのとき、赤ちゃんの父親が処置室に現れました。

 父親は赤ちゃんを見ると開口一番、こう叫びました。

 「今すぐ輸血をやめてください!」

 何を言われたのか、私はまったく分かりませんでした。のんびりしている時間はありませんので、赤ちゃんの状態と今行っている治療の内容を早口で説明しました。それでも、父親は輸血をやめろと繰り返し言います。私はもしやと思い、尋ねました。

 「それは宗教的な理由ですか?」

 父親はゆっくりとうなずきました。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

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