その医療 ホントに要りますか?
医療・健康・介護のコラム
高血圧治療 虚弱な高齢者への降圧薬は死亡率を上げる!?
弱った高齢者の降圧治療には転倒などの危険も
それでは、血圧が高ければ、どんな場合も治療した方がよいのでしょうか。
フランスとイタリアでナーシングホームに入所している80歳以上の男女計1100人余を、2年間にわたって調べた研究があります。ナーシングホームは介護施設で、日本の特別養護老人ホームなどに相当し、入所者は心身が弱った状態の人が多いとみられます。血圧が高く、薬を飲んでいる人も多くいました。
意外なことに、この研究では、降圧薬を2種類以上飲み、上の血圧が130未満と良好にコントロールされている人は、そうでない場合に比べ、死亡リスクが2倍以上も高いことが分かりました。高血圧の治療を最もきちんと受けていた人が、最も寿命を縮めていたのです。
東京都国分寺市の武蔵国分寺公園クリニック院長の名郷直樹医師によると、血圧の下がりすぎにより、転倒したり、腎機能が低下して腎不全になったりしたことが原因と考えられるといいます。
6メートル以上歩くのが困難な高齢者を調べた別の研究でも、上の血圧が140以上と高い人の方が、死亡リスクが低いという結果になりました。心身が弱った状態の人の場合、血圧が高い方が長生きということになります。
元気な高齢者への臨床試験 すべての人には当てはまらず
最近、「フレイル」という考え方が注目されています。フレイルは「虚弱」を意味し、「加齢とともに、筋力や認知機能など心身の活力が低下し、生活機能の障害や要介護状態、死亡の危険性が高くなった状態」を指します。介護施設を含めて、心身が弱ったフレイルの高齢者にも、高血圧の治療は広く行われていますが、これらのデータは、そうした現状に再考を迫っていると言えます。
名郷医師は「介護施設に訪問診療した際、『フレイルの高齢者への降圧治療は、危険なのでやめてください』と言っても、『血圧が高いと入浴できない規則なので』と言って聞き入れてくれません」と危機感をあらわにします。
数々の臨床試験で、降圧薬の高齢者への治療効果は証明されたはずなのに、このように逆効果な場合があるのはなぜでしょうか。実は、80歳以上の高齢者への降圧治療の効果を示した試験では、病弱な人は対象から除かれ、参加者は元気な高齢者に限られていました。臨床試験の結果をすべての高齢者に当てはめることはできないのです。(田中秀一 読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)
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続発性高血圧への適切な対応や高血圧薬を巡る不適切論文の問題を除いてもこの問題はひどく大事です。 血圧はあくまで一つのバロメーターであり血圧だけを...
続発性高血圧への適切な対応や高血圧薬を巡る不適切論文の問題を除いてもこの問題はひどく大事です。
血圧はあくまで一つのバロメーターであり血圧だけを見るべきではありません。
連続性で考えれば血管と神経は全身を絶え間なく繋いでおり最重要ですが他にも様々な繋がりがあります。
その時点での血管や関節その他、諸臓器の傷み具合を総合的に勘案する必要があります。
実はこういう科を統合した全身のケアをどの職種やチームが見ていくか、社会形成も含めて凄く難しい問題です。
一部の天才医師ではなく凡庸で真面目な医師のためにシステムは組まれるほうが中長期的に正しいからです。
そして、保険診療は今のところ投薬や手術のウエイトが大きいですが政治的問題を乗り越えてどうやって適切な検査やその評価に移し替えて救急や看取りの問題も含めて処理するか全国レベルでの課題でもあります。
建物の建て替えや遠隔診断インフラの整備と手術などのシステムの整理も勘案するとなると、医療以外の政治も絡んで医師会や専門医会の上層部だけでさえ意見がまとまらないと思います。
それで一部の科や施設の崩壊が負のスパイラルに入っているわけです。
地域の住民や政治家の方の理解と共に医療があるというのは事実でそういう啓発も含めて医療全体の処理を考えていく必要があります。
診察室や手術室の中だけが医療の舞台ではないですし、全ての地域住民は潜在的救急患者です。
運び込まれるまでの時間が数秒か数十年かの違いくらいです。
無駄かもしれませんが同じような内容で、先日のある研究会の演題に出させていただきました。
保険医療制度成立から日本社会も人々も大きく変わりましたが、
「特に高齢者の慢性的な病態における各部位の精査を含めてより大きな視野で医療システムを改変していくその中に高血圧の適正医療の問題がある。」
という認識が重要だと思います。
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