安心の設計
妊娠・育児・性の悩み
ダブルケア(下)子連れカフェで介護語り合う
専門の相談窓口も
育児と介護を同時に行う「ダブルケア」に直面する人を支えるため、自治体などが取り組みを強化しつつある。当事者同士の交流の場や専門の相談窓口を設けるなど、孤立化を防ぐ試みだ。各地に広がることが期待されている。
7月上旬、香川県坂出市の子育て支援拠点「さかいで子育て支援センター まろっ子ひろば」で「ダブルケアカフェ」が開かれた。当事者の女性ら4人が参加し、幼い子どもを目の前で遊ばせながら、親の介護について語り合った。
高松市の女性(34)は、認知症の母親(67)と長女(1)の世話に追われる中、今年2月に初めて参加した。自身が妊娠中も母親のトイレを介助し、出産後は夜中に3度の授乳のたびに、母親をトイレに誘導した。2人の食事介助を交互にしながら、合間に自分もご飯やおかずをかき込んだ。母親のトイレ介助中などは、泣き叫ぶ長女を放っておくしかなかった。
女性は「苦しんでいた時にカフェで自分の思いや愚痴をはき出せた。同じような立場の人に『そうだよね』と肯定してもらえ、救われた」としみじみと語る。
カフェを企画したのは、同センターの子育て支援コーディネーターで、ダブルケアの経験もある太田広美さん(43)。2017年4月から毎月1回開く。介護相談の窓口である市の「地域包括支援センター」の保健師も同席する。育児と介護の相談に同時に応じられるのが特色だ。参加者からは「子どもを安心して遊ばせながら相談できるのがいい」「介護の情報も得られ、心構えができる」との声があがる。
太田さんは「相談窓口を一本化することで、より効果的に情報を伝えたり、助言したりできる。同じ境遇の人たちが共感しあえる場を提供し、応援したい」と話す。
横浜市港南区では13年から月1回、ダブルケア経験者の植木 美子 さん(46)らが中心となってカフェを開いている。植木さんは「子どもの面倒を十分にみられないことへの罪悪感を打ち明けたり、介護の工夫を共有したりできる。こうした場が身近な地域に増えることが大切」と言う。植木さんが理事を務める一般社団法人「ダブルケアサポート」(横浜市)では、普及に向け、カフェを開きたい団体や個人に助言をしている。
堺市は16年10月、全7区役所にある地域包括支援センターに「ダブルケア相談窓口」を開設した。分かれていた子育てと介護の相談窓口を一つにし、研修を受けた専門職が両方の相談を受け付ける。
2人の幼い子を育てながら、認知症の母親を自宅で介護する30歳代の女性は「母親がデイサービスになじめなくて、行くのをやめた途端、介護の負担が増えた」と相談に来た。相談員は後日、母親の担当ケアマネジャーや、乳幼児支援担当の保健師らと会議を開き、支援策を検討。負担軽減のため、母親に合ったデイサービスを見つけ、ショートステイ(短期入所)の利用にもつなげた。女性は「子育てにも余裕ができた」と喜んだという。
市地域包括ケア推進課の安斉智子主幹は「ダブルケア特有のしんどさや負担感をくみとって、事情を丁寧に聞き取るようにしている。関係部署と連携して早期の課題解決につなげたい」と語る。
保育所や老人ホーム入所で配慮
育児・介護サービスの利用で、ダブルケアに配慮する自治体もある。横浜市や静岡県、堺市は、特別養護老人ホームの入所基準を見直し、入所しやすくした。堺市は認可保育所でも、入所判定で加点をしている。
岐阜県は、相談窓口や経験者の体験談を紹介するハンドブックを発行した。京都府は、ダブルケアの経験者を、相談などにのる人材として養成する方針だ。厚生労働省も、地域包括支援センターや市町村向けに策定した「家族介護者支援マニュアル」で、ダブルケアも念頭に相談支援にあたるよう呼びかけている。
ソニー生命保険が今年2~3月、ダブルケア経験者1000人に行った調査でも、介護施設や保育所の入所への配慮や相談窓口の開設を望む声が多かった。
横浜国立大学の相馬直子教授(福祉社会学)は「国や自治体は縦割り意識をなくし、育児・介護サービスの使い勝手を良くすることが急務だ。企業も、ダブルケアをしている従業員が仕事と両立させられるよう、働き方を見直す必要がある」と話す。
(この連載は、社会保障部・野口博文が担当しました)
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