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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

変わる「眼帯」の役割…子どもは着けない方がいい?

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 近頃、眼帯をしている人をめっきり見かけなくなったと思いませんか。それは、医学的に眼帯が必要なケースが少なくなったからです。

昔は感染予防…今の大人が使う目的とは

変わる「眼帯」の役割…子どもは付けない方がいい?

 昭和時代の前半は、感染症が大きな問題でした。当時の眼帯には、感染予防という目的も大きかったのでしょう。近年、そうした使い方は、ほとんどありません。(そもそも、どれだけ効果があったかは怪しいと思います)

 また、私が眼科医になった昭和50年代は、白内障などの手術後にも眼帯を使いました。手術後は、目にすぐに光を入れるなとか、外からの刺激を避けよとか、眼球保護をするとかの理由はありました。しかし、いずれも科学的根拠に乏しく、習慣だから着ける――という位置づけでした。もちろん、傷口からの出血や、涙や分泌物を吸収する程度の意味はあったと思います。

 今は術後数時間から1日はガーゼを当てて保護しますが、その後は使っても透明の保護眼帯にしておきます。ほかの目の病気でも「数時間だけ」と医師から指示されることがほとんどです。

 今、大人が眼帯を使うのは、 (まぶた) が腫れているなどの外見上の理由か、目の病気であることをあえて人に知らせるくらいでしょう。

 両眼で見るとものが二つ見える(複視)病気になったり、左右の見え方が著しく違うため両眼を同時には使いにくかったりする時に、症状を和らげるために着ける人がいます。これは、比較的新しい使い方です。

乳幼児への眼帯は絶対ダメ…知らない小児科医も

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 ここで、子どもの眼帯について述べます。

 子ども、特に3、4歳までの乳幼児は、眼帯は絶対に避けなければいけません。

 人間は生まれた時点では、まだ目の働きが完成していません。徐々に、両眼で物を見ること、物を追うことができるようになり、視力も発達します。

 このように視機能が発達段階にある乳幼児は、数時間片眼に眼帯をしただけで、斜視や弱視(矯正しても視力が出ない)になる可能性があります。眼科医にとっては常識ですし、私たちより前の世代の親たちも、常識として知っていたと思います。ところが、最近の親たちはあまり知らないようで、先日などは、このことを知らない若手の小児科医に会った時には驚きました。

子どもの弱視治療で使うことも…差別や偏見の防止が必要

 ただ、弱視治療の方法として、子どもに眼帯や、シールのようなアイパッチを使うことはあります。

 弱視は、視機能の発達がうまくいかず、左右の目の矯正視力に差が出てしまう状態です。良い方の目(健眼)に眼帯やアイパッチを使い、視力が出ていないもう片方の目だけを使ってものを見るという訓練をします。装用する時間は、症状の程度によって異なりますが、数時間から終日です。

 大切な治療ですが、子どもにとって幼稚園や学校でも眼帯を着けていることがストレスになったり、からかいの原因となったりすることは、以前から指摘されています。

 日常生活の中で眼帯をしている人を見かけることが少なくなっただけに、眼帯をする人は目立ってしまうでしょう。特に子どもの場合は、まず周りの大人がしっかり理解して、差別や偏見の対象にならないように対応しなければいけないところです。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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