老いをどこで 第2部
連載
[老いをどこで]地域「あいりん地区から」(中)高齢者住宅 地域が支援
介護や医療 本人が選択
![[老いをどこで]地域「あいりん地区から」(中)高齢者住宅 地域が支援](https://image.yomidr.yomiuri.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/20180731-027-OYTEI50007-N.jpg)
玄関でコスモ代表の山田さん(右)と話す入居者。「今まで転々としてきたけれど、ここでならずっと安心して暮らせる」という(大阪市西成区で)=田中ひろみ撮影
生活に困窮し、頼る家族もいない高齢者の問題が全国に先駆けて生じた大阪市西成区の「あいりん地区」。介護が必要になっても安心して暮らせるように、独自の支援網を築いてきたが、課題は残る。
「昼の弁当10人前お持ちしました」「デイサービスのお迎えに来ました」
あいりん地区に立つケア付きアパート「メゾンドヴュー コスモ」の玄関は、弁当業者や介護事業者らの声でいつもにぎやかだ。
「コスモ」は簡易宿泊所だった鉄骨造7階建ての建物を改装して2001年に開業した。約120人の入居者の多くが生活保護を受給し、半数が介護の必要な高齢者や障害者という。あいりん地区で2000年に独自に生まれ、今は10か所程度ある「サポーティブハウス」という高齢者住宅の一つだ。
コスモの玄関を1日に出入りするのは、入居者以外にのべ100人以上。訪問介護だけでも10社以上、ほかにも医師、行政や困窮者支援団体の関係者、精神保健福祉士など様々だ。
全国的に見ると、低所得の高齢者を入居させ、劣悪なサービスを提供したり、自前の介護サービスを過剰に使わせたりして利益を上げる「貧困ビジネス」が問題になっている。しかし、コスモでは医療や介護サービスなどは外部の力を活用し、透明性と本人の選択の自由を確保している。
コスモ代表の山田尚実さん(60)は、「あいりん地区は様々な支援団体や事業者が活動している。彼らとネットワークを作ることで、少ない職員でも入居者を支えられる。1人あたり月3万6000円の家賃収入だけで何とか経営できている」と話す。
コスモでは、服薬や金銭管理、通院の付き添い、行事の企画運営などの生活支援は自前の職員が担うが、それでも日中の職員は4、5人、夜間は1人だけ。入居者を支えるには地域のネットワークが欠かせない。
要介護5で重い認知症がある男性(91)は、コスモで暮らして17年。外出したまま戻れなくなって警察に保護されるなど、トラブルが続いた。そのたび、ケアマネジャーやヘルパー、地域包括支援センターの職員らを集め、会議を開いて、どう生活を支えるかを試行錯誤してきた。
今は1日3回の訪問介護で掃除、洗濯、排せつ介助を受け、週2回はデイサービスで入浴。気持ちが落ち着かない時は職員が付き添い、車椅子で散歩に出たりもしている。
コスモでは、希望があれば入居者の 看取 りにも対応している。山田さんは、「生活支援に行政がお金を出してくれれば、低所得の高齢者の生活を支える取り組みがもっと広がるはずだ」と話す。
孤立死予防へ 居場所作りを
ただ、こうした支援を受けられる人はまだ少数派だ。
あいりん地区などでサービスを提供する訪問介護事業所で働く男性(71)は、「利用者が部屋で独り亡くなっているところに出くわすヘルパーは多い。多くの利用者が『はよ死にたいねん』と言う。自分は独りで死んでいくもんだと、たんたんと生きてはる」と話す。
あいりん地区に詳しい桃山学院大の白波瀬達也准教授によると、あいりん地区を管轄する西成警察署が扱う死因不明の遺体の数は年間600人前後。多くは自宅での孤立死とみられるが、対策は進んでいない。
白波瀬准教授は、「孤立死は全国的に広がりつつある問題。古くからの地縁が希薄な地域では、孤立するリスクが高い人たちの意見を聞いて、様々な居場所を作るなど、新たな地縁を作っていく必要がある」と指摘している。
財政問題との両立課題
多様な民間団体、医療、介護事業者が活動しているあいりん地区。「あいりんに行けば何とかなる」と、近年は他自治体から生活に困った高齢者が移ってくる例もある。
ただ、支援の手厚さは財政的な負担もはらむ。2016年度の大阪市の生活保護費は約2800億円と全国の約8%を占め、介護保険料も月平均7927円と全国平均より2058円高い。全国的にも、困窮する高齢者が増えた時、財政問題とどう両立させるかは重要なテーマだ。
大阪市は12年から「西成特区構想」を掲げ、生活困窮者支援や治安対策に加え、あいりん地区への子育て世帯移住促進や観光振興など、税収増につながる施策にも取り組んできた。実際、多くの外国人観光客が簡易宿泊所を改装した格安宿を利用し、観光客向けの飲食店も増加。22年には、近くに高級ホテルで知られる星野リゾートが進出する予定だ。
地域活性化を歓迎する声がある一方、地価が上昇すれば生活困窮者の居場所がなくなり、長年かけて築かれた支援網が失われると不安視する声もある。特区構想の有識者メンバーを務める近畿大の寺川政司准教授は、「地域の活性化を困窮者の就労と結びつけるなど、弱者が排除されない仕組みを地域の人たちと話し合って作っていきたい」としている。
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