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老いをどこで 第2部

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[老いをどこで]地域「あいりん地区から」(上)「地域の役に」74歳で就活

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必要とされていると感じたい

[老いをどこで]地域「あいりん地区から」(上)「地域の役に」74歳で就活

74歳で就職活動を始めた男性。国語辞典を開き、履歴書に向かっていた

 大阪市にある日本最大の日雇い労働者の街「あいりん地区」。独身男性が全国から集まり、高度経済成長を支えた街は今、高齢化に直面している。今後、全国で高齢者の単身、貧困化が懸念される中、3回にわたって、あいりん地区から課題とヒントを探る。

 「入居者募集 生活保護の方 大歓迎!」

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 「釜ヶ崎」とも呼ばれる大阪市西成区のあいりん地区を歩くと、「生活保護」と書かれた貼り紙が目立つ。

 近くにそびえる超高層ビル「あべのハルカス」とは対照的に、0.62平方キロ・メートルほどの地域には、日雇い労働者が泊まる簡易宿泊所や低家賃のアパートがひしめく。市によると、住民約2万人のうち、約4割が生活保護受給者。65歳以上の住民の割合は約45%に上る。

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特別清掃事業の仕事を求め、あいりん総合センターに集まってきた男性たち

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特別清掃事業で街中を掃除する男性たち ※写真はいずれも大阪市西成区、田中ひろみ撮影

 日雇い労働者は厚生年金には加入できず、国民年金の保険料を未納だった人もいる。高齢でそれまでのように働けなくなると、生活保護を受けることが多い。

 しかし、高齢で生活保護を受けていても、働きたいと願う人は多い。

 「この年で履歴書の書き方を初めて教わったよ」

 今年6月、アパートの一室で生活保護を受ける男性(74)が図書館で借りた国語辞典を横目に、履歴書に向かっていた。

 家が貧しく、中学3年の夏、仕事を求めて釜ヶ崎にたどり着いた。とび職として全国の大型 橋梁きょうりょう の工事に携わった。建設会社の社員になり、この地区を出て家庭を持ったこともある。

 62歳の時、不況で仕事がなくなり、直後に自宅を火災で失った。家庭内がぎくしゃくし、単身、釜ヶ崎に戻った。日雇いの仕事を続けてきたが、65歳を過ぎて病気で入院。年金が少なく、入院中に生活保護を申請したが、負い目を感じ、一時はうつ状態になったという。

 74歳で就職活動を始めたのは、「何とか地域の役に立ちたい」と思ったからだ。履歴書にはこう書いた。「恵まれない子どもに鉛筆1本、ノート1冊でも寄付したい。必要とされていることを実感したい」

 男性は府の外郭団体「西成労働福祉センター」が実施する清掃業の訓練を受講し、面接に合格。7月中旬から働き始めた。

 働きたい高齢者が仕事を分け合う仕組みもある。

 午前8時過ぎ。300人ほどの中高年男性が、就労支援を行う「あいりん総合センター」に集まってきた。

 「772番、773番……」。自分の登録番号が呼ばれると、一列に並んでいく。この日の仕事は191人分。番号が呼ばれなかった約100人は去っていった。

 生活保護を受けていない55歳以上に、街中の掃除など、日給5700円の仕事を紹介する「特別清掃事業」。建設現場の仕事が難しい人のため、大阪府と大阪市の予算で1994年から始まり、現在、約1000人が登録している。

 順番に番号が呼ばれ、並ばなければ、次の番号の人に仕事がいく。「体調が悪い日は連絡なしで休め、気を使わずに済む」と好評だ。番号が近い人同士は顔なじみになり、清掃中は住民から「おっちゃん、おおきに」と声をかけられる。それを楽しみにする人も多い。

 日本の高齢者の特徴は、就労意欲が高いことだ。内閣府が全国の60歳以上の人に「何歳まで働きたいか」を尋ねた調査(2014年)では、3割が「働けるうちはいつまでも」と答え、「仕事をしたいと思わない」との回答は1割のみだった。

 就労意欲の高さはあいりん地区も例外ではない。

 「生活保護で衣食住が安定しても、『精神的に苦しい。仕事をしたい』という高齢者は少なくない。仕事はお金を得るためだけのものではなく、社会とのつながりを持ち続けるうえで大切なもの」。特別清掃事業を受託するNPO法人釜ヶ崎支援機構の山田実理事長(67)はそう話す。

 今、事業で仕事が回ってくるのは1人月6、7回。「もっと働きたい」という声は多い。その思いにどう応えるか、模索が続く。

高齢、孤立… 「あいりん」の課題 全国でも

 あいりん地区の課題はひとごとではない。困窮し、頼る家族もいない高齢者の増加が全国的に懸念されているからだ。

 国の推計では、2040年の単身高齢者の数は、15年の1.4倍の896万人に増える見通しだ。また、生活保護を受給する高齢者世帯は16年には約84万世帯と、10年前の1.8倍に増えた。非正規雇用が拡大していることなどから、さらに増えるおそれがある。

 あいりん地区でも日雇い労働者だけでなく、地元住民も高齢化し、独居高齢者の見守りなど、共通の関心事が増えた。

 08年には、交流の乏しかった労働者支援組織や町会などが街づくりを一緒に議論する場が生まれた。12年から、大阪市も「西成特区構想」を掲げて予算を重点的に投入。路上での覚醒剤密売やごみの不法投棄など、治安問題が急速に改善した。今も福祉や地域活性化など、多角的な街づくりが進められている。

 街づくり団体「釜ヶ崎のまち再生フォーラム」のありむら潜事務局長(66)は、「非正規雇用や孤立の問題が全国に先駆けて進んだ釜ヶ崎から、地域再生のモデルを創りたい」と話す。

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